- 著者
-
横田 紘子
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は強誘電体や圧電体においてみられる巨大応答特性の起因を解明し、その原理を利用した新規物質を開発することを目的としている。本年度はこれまで共同研究を行っているイギリスのOxford大学に2カ月半の間滞在し、圧電材料として広く利用されているPb(Zr,Ti)O_3(以下PZT)の構造解析を行った。PZTにおいてはTi濃度が48%近傍において2相の境界が温度に対してほぼ垂直になるようなmorphotropic phase boundary (MPB)が存在し、この付近では誘電,電気機械定数が最大値をとることで知られている。このことはMPB近傍において対称性が著しく低下することによるものだと考えられてきた。しかしながら、申請者らは詳細な構造解析を行った結果、室温において低対称相と高対称相とが共存した状態になっていることを明らかにしてきた。このことから、PZTの相図を見直す必要があるのではないかと考え、温度,組成を変化させ構造解析を行った。その結果、PZTは常に2つ以上の相が共存する混晶状態であることが明らかとなった。すなわち、PZTにおいては対称性が低下することよりも、むしろ異なる相が共存することにより系全体が揺らいだ状態になることで巨大物性がもたらされるといえる。このような考え方はほかの凝縮系にも適用することができるユビキタスな概念であるといえる。これのら結果について、申請者は国際学会の場で発表を行い、2つの奨励賞を受賞している。また、新規物質をつくるという研究においてはパルスレーザー堆積法を利用した薄膜づくりを精力的に行ってきた。特に、マルチフェロイックス物質において一般にみられるdゼロネス問題を持たないことが期待される希土類遷移金属酸化物に着目をし研究を行ってきた。