著者
妹尾 拓司 橋本 晋輔 三ツ井 奨一朗 山本 涼平 猪谷 富雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.182-193, 2021-04-05 (Released:2021-05-20)
参考文献数
52

葉色が緑色でないイネ(葉色変異稲)は,観賞用イネとして水田アートやドライフラワーなどに用いられる.中でも植物体が紫色に見える品種を紫稲,黄色に見える品種を黄稲という.紫稲および黄稲の利用に際して,その品種特性の解明と安定した色素発現が重要になる.紫稲の着色はアントシアニンによるもので,その生合成は他の作物の場合と同様に栽培時の光質・光量の影響を強く受けると考えられるが報告は少ない.本研究では,紫稲9品種および黄稲2品種の計11品種を対象に,水田での栽培のほか,UVカットフィルムや黒色寒冷紗などの被覆資材を用いて植物体に対する光量・光質を変化させたポット栽培を行い,色彩色差計を用いた葉身の色調とアントシアニン含量を測定した.実験の結果,紫稲の品種は出穂期や稈長の変異が大きく,アントシアニン含量は10倍以上の違いが認められ,その含量によって色調も赤から緑へと段階的に変化した.紫稲は,UVカットフィルムの被覆処理区でアントシアニン含量の減少が大きく,アントシアニン生合成には390 nm以下の光質が特に重要であることが示された.黄稲の2品種の色調は黄色と黄緑色を示し,また被覆処理区の色調はすべて緑に近づいた.とくに黒色寒冷紗でその傾向が強かったことから,黄稲の着色には光量が重要であると考えられた.また,年次と栽培地を変更して紫稲・黄稲など5品種を栽培し,3種類の非破壊測定器を適用して,葉身の色彩色差値,葉緑素含量(SPAD値),アントシアニン含量(ACI値)の測定値から,その違いを明確にした.