著者
土屋 哲郎 松田 智明 長南 信雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.172-182, 1993-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ジャガイモ塊茎の維管束の分布と連絡を, 連続切片を作製して光学顕微鏡で観察した. ストロン着生部から塊茎に入った維管束は皮層の外篩部, 維管束環の複並立維管束, 周辺髄の内篩部と分かれる. 皮層の外篩部と維管束環の維管束はいずれも周皮と平行な網状の分岐・連絡をもっており, 周辺髄の内篩部では目 (側芽) に向かう篩部と塊茎の中心方向に向かう篩部とが立体的な網状の連絡をもっている. 維管束環の外篩部と内篩部は, それぞれ皮層の外篩部および周辺髄の内篩部と, いずれも放射方向の連絡をもっている. 周辺髄は射出髄によって地上茎の島状の維管束に対応する房に区切られているが, これらの房は目の基部で互いに分離融合をしている. 急速肥大期の観察によると, 塊茎内各組織のデンプン密度は維管束の分布と関係があり, 皮層と周辺髄の篩部の周囲で特に高く, 維管束の分布しない中心髄では低いことが示された. このような維管束の分布と走向から, 塊茎肥大期における塊茎内での同化産物の転流経路を推定した. また, 塊茎内各組織の維管束の分布とデンプン蓄積の関係について検討した.
著者
杉本 秀樹 越智 由紀恵 浅木 直美 諸隈 正裕 加藤 尚 荒木 卓哉 ホセイン シェイク タンヴィ-ル
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.246-252, 2019-10-05 (Released:2019-11-12)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年,クラゲが日本近海に大量発生し,水産業や臨海施設に大きな被害を与えているが,このクラゲを脱塩・乾燥した細片(クラゲチップ)を水田に施用すると肥料効果だけでなく抑草効果を併せ持つことが示された.しかし,収量が慣行栽培(化成肥料,除草剤使用)より約10%低いこと,抑草効果が不十分でかつ不安定であることなど実用化に向けての様々な課題が指摘された.そこでクラゲチップと同様に2つの効果を併せ持ちながら含有成分や肥料効果の発現時期の異なる米ぬかに着目し,これをクラゲチップと併用して試験を行った.その結果,クラゲチップを単独に施用した場合に比べ,両者を併用した場合には収量は慣行栽培とほぼ等しく雑草発生量は顕著に減少した.本研究よりクラゲチップと米ぬかを併用することで,慣行栽培なみの収量が得られ,抑草効果も顕著に高まることが明らかになった.収量性の向上は,両者の成分含有率と肥料効果発現時期の違い,抑草効果の向上は両者がそれぞれ持つ成長抑制物質の違いによる相乗効果に起因したと考えられた.
著者
笠原 安夫
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1-2, pp.193-198, 1951-12-30 (Released:2008-02-14)
被引用文献数
1

1) In order to obtain a fundamental knowledge for the control of weeds, the writer have investigated since 1942, under the co-operation of thirty seven plant taxonomists who live in different regions of Japan, what kinds of weeds are found on the paddy field as well as the upland field and how is their geographical distribution. 2) Japan was subdivided into 10 weather sections according to Dr. FUKUI, that is Hokkaido (B.C) Sanriku (Ej), Ryou (Ep), Hokuriku (Eq), Tozan (El), Tokai (Ek), Sanin (Fr), Setonaikai (Em), Kitakyushu (En), and Nankai (Eo), and each of these districts were investigated kinds and their abundance of weeds in paddy field. 3) The total number of species of weeds grown on paddy field in the whole region of Japan, except in Hokkaido, amounted to 186 species of 42 families. Among them, 30 species were recognized as the most noxious, 68 species as the moderately noxious and 88 species as the slightly noxious. 4) Hokkaido has considerably different kinds of weeds in the paddy field from the other part of Japan; about 73 species of weeds which are distributed in Honshu are not in found in Hokkaido, and, on the other hand, some frigid plants which are not seen in the Main Land grow on the paddy field in Hokkaido. This seemed to be due to the low temperature and the short historical period of rice growing in the district. 5) Majority kinds of weeds are more or less widely distributed throughout Japan, exclusive of Hokkaido, and weeds on the paddy field which are confined to the south-western part are only 9 kinds. 6) Among 186 species of weeds on the paddy field in Japan, only a few species are endemic to this country, majority parts of them being common to the other part of the worId, and they are considered to be originated from south-eastern Asia and southern China. 7) It is noteworthy that there are very few species of naturalized weeds on the paddy field which are distributed in a limited area, while that as many as about 80 kinds of naturalized weeds on the upland field in Japan are known to have invaded from some foreign countries in recent time.
著者
森田 敏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-12, 2008 (Released:2008-02-08)
参考文献数
121
被引用文献数
57 72

近年, 登熟期の高温により米の品質や玄米1粒重が低下する, いわゆる高温登熟障害が頻発していることが指摘されている. 地球的規模の温暖化の進行にともない今後の被害の拡大と甚大化が懸念される. このため高温登熟障害の克服に向けて, メカニズムの解明と対策技術の開発が喫緊の課題である. 本稿では, イネの高温登熟障害の実態, 背景を示すとともに, 主な症状である白未熟粒, 充実不足, 胴割れ粒の発生と玄米1粒重の低下, 食味の低下のメカニズム, 耐性品種など発生回避技術の開発に関する知見を整理し, 今後の研究方向を論じる.
著者
高橋 清 大竹 博行 星川 清親
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.p623-628, 1992-12
被引用文献数
3

イネの一生を通じて, 茎の起き上がり能力の変動を明らかにするために, 水稲品種ササニシキを用いて以下の実験を行った. 第1実験Aでは1ポットあたり20粒播種し, 出現した分げつを切除し, 主茎のみを残した. 葉齢7から出穂後3週目までの期間を, 11の段階に分けて, 各生育時期にポットごと横転する処理を行った. その結果, 葉齢7から出穂後1週目までの処理では, 植物体は完全に鉛直方向へ起きあがった. しかし, 出穂後2週間目以降は, 起き上がり能力が著しく減退した. また, 生育の推移と共に, 反応葉枕は上位節へと移動すると共に, 反応葉枕数は次第に減少した. なお, 1個の葉枕の反応能力の持続期間は, 伸長茎部の葉枕で長いことが示された. 第1実験Bでは, 葉齢11.1から12.1の期間を6段階に分けて, 起き上がり能力を調査した. その結果, 前半は第10節の葉枕が最大反応を示した. しかし, 後半は第10節の反応が衰え, その低下を補うように, 第11節の葉枕が最大反応を示した. 第2実験では, 登熟期の起き上がり能力の減退要因を探った. その結果, 横転と穂切除の同時処理によって, 起き上がりが促進されることが認められた. これは, 力学的に穂による荷重が減少したためと考えられる. 一方, 横転処理開始1〜2週間前に穂を切除した場合は, むしろ起き上がりは抑制された. この場合, 葉枕部の珪酸蓄積が穂切除によって顕著に増大する事が認められた. 従って, 葉枕部への珪酸蓄積が起き上がり能力の減退に関わっていることが示唆された. その他の要因についても考察を行った.
著者
吉村 泰幸
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.386-407, 2015 (Released:2015-10-29)
参考文献数
212
被引用文献数
1 1

近年,環境への負荷軽減に配慮した持続的な農業の推進が求められている中,高い乾物生産能力を持ち,水や窒素を効率的に利用するC4植物は,食用だけでなくエネルギー作物としても利用が期待される植物資源である.しかしながら,その特性を活用した研究は少なく,基礎的な知見も数種の作物を除いて十分でない.本研究では,雑草を含む多様なC4植物を有効に活用するための第一歩として,国内に分布するC4植物の一覧を作成した.国内には,真正双子葉類8科19属62種,単子葉類3科72属357種,合計11科91属419種のC4植物が分布することが確認された.1990年に報告された種数と比較すると,真正双子葉類で19種,単子葉類で157種増加した.真正双子葉類のキツネノマゴ科,ムラサキ科,ナデシコ科,ザクロソウ科,ゴマノハグサ科におけるC4植物の国内での分布は当時と同様に確認されなかったが,ハマミズナ科,キク科,フウチョウソウ科におけるC4植物の分布が新たに確認された.単子葉類では,トチカガミ科水生植物のクロモが水中の低CO2濃度条件下でC4型光合成を行うことが報告されており,C4型光合成を行う単子葉類は3科となった.C3-C4中間植物については,これまでC4植物と考えられていたザクロソウモドキがC3-C4中間植物であることが判明し,新たに5種の帰化種の分布が確認され,計6種となった.また新たに確認されたC4植物について,真正双子葉類の84%,単子葉類の46.8%が栽培種を含む帰化種であり,作物としての導入や輸入穀物原料等への混入を介してC4植物を含む雑草種子が国内に侵入している現状を反映していると考えられた.
著者
福島 裕助 中村 晋一郎 藤吉 臨
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.432-436, 2001-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
10
被引用文献数
1

スクミリンゴガイ生息田への野菜投入によるイネ苗の被害回避の可能性を探ることを目的として, 水槽内で野菜に対するスクミリンゴガイの選好性と摂餌行動を明らかにした.水槽内で, イネ苗と数種の野菜を同時に与えると, イネ苗よりもメロン, スイカ, レタス, ナスおよびトマトに対する貝の付着頭数または被摂食量が多かった.また, 付着頭数と野菜の被摂食量との間には正の相関関係が認められた.このことから, スクミリンゴガイは, これらの野菜に対する選好性が高いと判断された.選好性の高かったメロンとナス, 選好性の低かったイネ苗とタマネギを同時に与えて, スクミリンゴガイの摂餌行動を観察すると, 本貝は6時間以内に選好性の高い食餌を認識した.また, 選好性の低い食餌に一次付着した貝は, その後, 選好性の高い食餌へ移動した.さらに, 選好性の高かったメロンやナスへの付着時間はイネ苗よりも明らかに長かった.これらの結果から水田へ選好性の高いメロン, スイカ, レタスやナスを投入することによって, スクミリンゴガイによるイネの被害を回避できる可能性のあることが示唆された.
著者
中道 浩司 足利 奈奈 来嶋 正朋 佐藤 三佳子 吉村 康弘
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.49-55, 2013

本研究は,北海道の春まきコムギ優良新品種「はるきらり」を上川農業試験場 (北海道上川郡比布町) にて3年間栽培・試験し,収穫物である子実の製粉特性ならびに小麦粉の製パン性といった品質特性について,基幹品種「春よ恋」と比較することで評価したものである.品質特性は,子実については子実タンパク質含有率,子実灰分含有率,製粉工程でのミドリング粉量に対するブレーキ粉量 (BM率) で,小麦粉については小麦粉タンパク質含有率,小麦粉灰分含有率,生地吸水率,グルテンインデックス,パン体積で評価した.小麦粉タンパク質含有率ならびに小麦粉灰分含有率は,それぞれ同じ子実タンパク質含有率,同じ子実灰分含有率であれば,「春よ恋」が「はるきらり」よりも高かった.BM率は,両品種とも子実タンパク質含有率と正の相関を示し,同じ子実タンパク質含有率であれば,「はるきらり」が「春よ恋」よりも高かった.さらに,小麦粉タンパク質含有率は,吸水率,パン体積,可溶性ポリマー含有率 (EPP),可溶性モノマー含有率 (EMP) および不溶性モノマー含有率 (UMP) と正の相関を示し,グルテンインデックスと負の相関を示した.一方で,「はるきらり」は,「春よ恋」よりも吸水率が低く,グルテンインデックスが低く,パン体積が大きく,EPP と EMP が高く,不溶性ポリマー含有率 (UPP) が低かった.
著者
千葉 雄大 松村 修 寺尾 富夫 高橋 能彦 渡邊 肇
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.455-464, 2009-10
被引用文献数
1

深水栽培による籾数制御と草姿の改善により、水稲の登熟期における高温による白未熟粒の発生抑制を試みた。2004年から2007年に、水稲3品種(初星、ササニシキ、コシヒカリ)を分げつ盛期から最高分げつ期にかけて水深18cmで深水処理し、生育、収量と白未熟粒割合を調査した。深水処理により、2次分げつおよび上位1次分げつといった弱小分げつが減少して、強勢な下位の1次分げつの穂を中心とした分げつ構成となり、有効茎歩合が高まった。その結果、深水処理により穂数は減少したが、一穂籾数と玄米千粒重が増加し、年次変動はみられたが、慣行栽培と同程度の収量が得られた。深水処理により白未熟粒発生が抑制され、特に、乳白粒の発生を顕著に抑制した。また、深水栽培は、オープントップチャンバーによる高温処理においても白未熟粒発生を抑制し、高温による品質低下防止に効果があった。この効果は、高温登熟耐性の弱い品種ほど顕著であった。しかし、深水処理は茎数を減少させるため、十分な茎数が確保できない場合には減収した。このため、高品質米の収量確保には、有効茎数を確保してから深水処理を開始することが必要であり、深水処理開始時の茎数が330本/m2程度確保できれば、慣行栽培と同程度の収量と、白未熟粒発生抑制の両立が期待できる。
著者
中嶋 泰則 濱田 千裕 池田 彰弘 釋 一郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.366-375, 2006 (Released:2006-09-05)
参考文献数
10
被引用文献数
1 3

2月中旬のコムギ立毛中に水稲を不耕起播種する「水稲麦間不耕起直播栽培」の省力安定化技術の確立を目的に, コムギ播種前の秋季代かきと播種同時施肥について検討した. 不耕起V溝播種機を供試し, 開口部2 cm, 深さ5 cmのV溝に水稲播種と同時に施用する肥料を検討したところ, 水稲の生育や窒素の溶出パターンから, 基肥としては肥効調節型肥料のLPSS100(シグモイド型被覆尿素100日タイプ)が適合すると考えられた. また, LPS120(シグモイド型被覆尿素120日タイプ)が穂肥としての肥効を示すことも示唆された. これらの肥料は, コムギ生育中での窒素の溶出量が少なく, コムギの収量・品質に悪影響を与えなかった. コムギ播種前に秋季代かきを実施することで, 水稲播種時における圃場の均平と硬度が確保され, 播種作業によるコムギへの傷害が少ないうえ, 水稲の播種精度が向上し出芽・苗立ちが安定した. このような結果に基づき, 1999年にコムギ播種前の秋季代かきおよびLPSS100の水稲播種同時施肥を水稲麦間不耕起直播栽培体系に組み込み, 94 aの大区画圃場において検討したところ, 1 ha当たりの全刈り収量はコムギ4.94 t, 水稲5.32 tで合計10.26 t, 圃場内労働時間23.5時間が達成でき, 本栽培体系における省力安定性が示された.
著者
猪谷 富雄 小川 正巳
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.137-147, 2004 (Released:2004-09-29)
参考文献数
110
被引用文献数
14 26

赤米とは, 糠層にタンニン系赤色色素を持つイネの種類であり, わが国においては日本型とインド型の2種の赤米が栽培されてきた. 日本型の赤米は古くから日本に渡来し, 7~8世紀には全国各地で栽培されたことが平城京跡などから出土する木簡から推測されている. 14~15世紀には中国からインド型の赤米もわが国へ渡来し, 「大唐米」などと呼ばれ, 近世に至るまでかなりの規模で栽培されていた. 早熟で不良環境や病害虫に強い大唐米は, 最盛期の江戸時代には関東から北陸地方以西において広く栽培され, 特に低湿地や新たに開発された新田などに適していた. 明治時代に入るとこれらの赤米は徐々に駆除され, わが国の水田から姿を消す道を辿った. 例外として, 日本型の赤米の一部が神聖視され, 神社の神田などで連綿と栽培されてきたもの, 雑草化して栽培品種に混生してきたものなどがある. 約20年前から, 赤米は小規模ながら栽培が復活し, 日本各地で歴史や環境を考える教育や地域起こしの素材として利用されている. また, 赤米は抗酸化活性を持つポリフェノールを含む機能性食品としても注目されている. わが国における赤米栽培の歴史と赤米を取り巻く最近の研究状況などについて, 以下の順に概要を述べる. (1)赤米を含む有色米の定義と分類, (2)赤米の赤色系色素, (3)赤米の栽培の歴史, (4)残存した赤米, (5)赤米など有色米が有する新機能, (6)赤米の育種などに関する最近の情勢.
著者
細谷 啓太 杉山 修一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.266-273, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

無施肥栽培は収量の著しい低下を招くと考えられているが,長期間無施肥でも慣行栽培に匹敵する収量を安定的に生産している農家が存在する.本研究では,無施肥条件におけるイネの生育と収量成立過程を明らかにすることを目的とし,青森,岩手,宮城,新潟の計16の無施肥農家水田の収量と収量形成要因を解析した.2011年から2013年までの過去3年間の全国の無施肥農家水田の平均収量は約300 kg/10aだったが,一部の水田においては420~480 kg/10aの収量が毎年安定的に生産されていた.収量解析の結果,収量はm2当たり籾数に強く依存し,特に穂数との間には高い正の相関関係 (r=0.92***) が認められた.また,穂数と最も高い相関を示したのは移植日から出穂43日前までの日平均気温 (r=0.66**) であった.無施肥水田土壌を用いて異なる移植日でイネのポット栽培試験を行った結果,分げつ増加速度は日平均気温 (r=0.92***) と高い正の相関を示した.重回帰分析に基づくパス解析の結果,日平均気温が分げつ増加速度に与える影響は,気温の生育促進効果と,気温による土壌無機態窒素の供給増加効果がほぼ等しく貢献していることが分かった.これらのことから,北日本の無施肥栽培では栄養成長期の気温が高くなることを通じた穂数確保が高い収量を達成するために重要であることが示された.
著者
吉村 泰幸
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.277-299, 2021-07-05 (Released:2021-08-03)
参考文献数
281

ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)型光合成は,水分の損失を最小限に抑えた代謝経路であり,近年,温暖化する気候条件下に対して安定した収量を確保する農業生産の一つの手段として,圃場試験も進められている.この代謝を持つ植物は高温・半乾燥地帯の景観を占めるが,熱帯林や亜熱帯林の着生植物,高山植物,塩生植物,水生植物としても確認されており,現在,地球上の様々な環境下で生育している.よって日本においてもCAM植物が自生し,農業利用に適用できる可能性もあるが,国内に自生する植物種やその生育地についての情報はほとんどない.そこで本研究では,国内外の文献を元に国内に分布するCAM植物種を抽出し,特に,その生育環境について検討した.その結果,日本においても,岩場,海岸,山草地,畑・路傍,極相林,貧栄養湖等にCAM植物が生育していた.栽培種を含め国内に分布するCAM植物は,ヒカゲノカズラ植物門ミズニラ科の5種,シダ植物門ウラボシ科3種,イノモトソウ科1種,マツ門(裸子植物門)ウェルウィッチア科1種,被子植物では,モクレン類コショウ科1種,単子葉類7科25属86種,真正双子葉類11科53属140種で,合計23科83属237種であった.そのうち栽培されている種が185種と全体の約8割を占め,在来種も56種の分布が確認されたが,ほとんどの種は,岩場や海岸など厳しい水分環境下で生育していた.また,帰化種も33種確認されたが,海外で確認されているアカネ科等におけるCAM型光合成を持つ種は確認できなかった.
著者
金田 吉弘 西田 瑞彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.242-249, 2018-07-05 (Released:2018-07-28)
参考文献数
25

有機栽培水稲において,収量550~600 g m–2を目指す目標生育を設定した.また,有機肥料の窒素肥効率と窒素無機化特性を明らかにし,生育診断による追肥が収量に及ぼす影響を検証した.その結果,有機栽培の茎数はいずれの時期においても慣行栽培に比べて少なく推移するものの有効茎歩合が高い生育となり穂数はほぼ同等であった.有機栽培の葉色値は7月上旬までの生育初期は慣行栽培に比べて低いが,幼穂形成期以降は慣行栽培を上回った.5種類の有機肥料の窒素肥効率は,約40から80%で平均では69%であった.反応速度論的手法により求めた有機肥料の窒素無機化率は約20から60%であり,窒素肥効率との間には有意な正の相関が認められた.生育診断に基づき追肥を実施した結果,ほぼ目標値に近い穂数と葉色値に接近し,550~600 g m–2の目標収量が得られた.以上のことから,有機栽培水稲において,目標生育と生育診断に基づく追肥により550~600 g m–2の収量が得られることが明らかになった.
著者
及川 聡子 西 政佳 由比 進 柏木 純一 中島 大賢 市川 伸次 木村 利行 大平 陽一 長菅 輝義 黒田 榮喜 松波 麻耶 下野 裕之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.259-267, 2019-10-05 (Released:2019-11-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1

寒冷地における水稲栽培の作期拡大を目的として,雪解け後の春作業の制約を受けない初冬播き乾田直播栽培の可能性が検討されている.水稲の初冬直播き栽培の実用化においては,出芽率の向上が極めて重要な課題である.本研究では,初冬直播き栽培での出芽率向上のため,種子表面へのコーティング素材 3種類(鉄,カルパー,デンプン)を検討した.2016/2017年に岩手県において,初冬直播き栽培での出芽率は無コーティングでは2%に低下するのに対して,3つの素材のうち鉄をコーティングした場合のみ24%まで有意に向上した.鉄のコーティングによる出芽率の向上効果を2017/2018年に4品種(ひとめぼれ,まっしぐら,あきたこまち,萌えみのり)について検討した結果,無コーティングでは1~3%であった出芽率が鉄のコーティングによって11~30%に有意に向上した.岩手県以外の4地点(北海道,青森県,秋田県,三重県)でも,同様の結果が得られた.以上,種子表面への鉄のコーティングが初冬直播き栽培での出芽率向上に高い効果を示すことを明らかにした.
著者
小葉田 亨 植向 直哉 稲村 達也 加賀田 恒
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.315-322, 2004 (Released:2004-11-17)
参考文献数
36
被引用文献数
39 45

近年, 西日本を中心に乳白米多発による品質低下が起きている. 乳白米発生原因としては, 登熟期高温による子実成長過程への直接的影響, あるいは着生穎花数が多い, あるいは葉色の落ちたイネで乳白米発生が著しくなるなどから子実への同化産物供給不足が考えられる. そこで, 本研究では3年間にわたり島根県と大阪府の気温・立地条件の異なる3地域でコシヒカリを栽培し, 圃場条件下での乳白米発生状況と登熟期間引きにより物質生産を増やしたときの乳白米発生を調べ, 同化産物供給不足が乳白米発生の主原因であることを明らかにしようとした. 一部地域では登熟期にフィルムで覆った高温区を設けた. その結果, 穂揃い後30日間の平均気温(T30)は23~29℃となり, 籾の充填率は70~90%, 乳白米発生率は0.8~16.0%の変異を示した. T30が高いほど乳白米率が大きなばらつきを持ち増加した. そこで穂揃期以降, 栽植密度を半分に間引いたところ, どの地域, 温度処理でも間引きにより籾の充填率はほぼ90%近くまで増加し, ほとんどの地域で乳白米率が6%以下に減少した. 全結果を込みにすると, 充填率が増えると乳白米発生率が低下した. したがって, 間引きは幅広い温度域で籾の充填率と乳白米発生率を改善した. 以上から, 乳白米は子実の同化産物蓄積過程自体が高温で阻害されるよりも, 高温によって高まった子実乾物増加速度に対して同化産物供給が不足することにより主に生ずると推定された. そのため, 登熟期の同化促進技術は乳白米発生の抑制に有効であると考えられた.
著者
新田 洋司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.95-97, 2005 (Released:2009-07-07)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3
著者
源馬 琢磨 三浦 秀穂 林 克昌
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.414-418, 1993-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2 4

わが国の水田利用再編対策のもとで, ワイルドライス (アメリカマコモ) のもつ水生植物としての特性や寒冷地での適応性は, 北日本での実用的な水田栽培の可能性に対する興味を刺激している. 本研究では, 幼植物体の生育に及ぼす水深と温度の影響を検討するため, ニつの実験を行った. 実験1はNetumを用いてガラス室で, 実験2はK2を用いて人工気象室で実施した. 移植後30日目の乾物重でみた生育は, 実験1では水深2cmで, 実験2では2~6cmで促進された. これらには葉と根の数とサイズの増加が貢献していた. 草丈は水深の違いによって大きく影響されないが, 8cm以上の水深で栽培したとき徒長気味の生育を示し, 幼植物体の乾物重は大きく低下した. 実験2でみた温度の影響は強く表れ, 12℃に比べ20℃での生育が優った. 温度と水深の間には相互作用がなく, これら二つの要因は独立して幼植物体の生育に影響を及ぼすとみられた.
著者
浅野 紘臣 磯部 勝孝 坪木 良雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.174-177, 1998-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
8
被引用文献数
4 3

慣行栽培とアイガモ栽培(有機農法)により栽培された米の食味について官能試験により調査した.米の食味は, 総合評価ではアイガモ栽培米より慣行栽培米の食味が高いと判断された.その要因として, 慣行栽培米に比べてアイガモ栽培米はタンパク質含量が1%以上高いことが上げられる.しかし, 官能試験を行う前にアイガモ栽培米に関する幾つかの情報をパネルに伝えることによって, アイガモ栽培米の食味評価が若干高まった.言い換えれば, 米の情報を消費者に提供することによって, 消費者の米に対する評価が変化することを示唆していると思われた.