著者
檜杖 昌則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.6, pp.349-358, 2010 (Released:2010-12-06)
参考文献数
25

マラビロクは,HIV(human immunodeficiency virus)が宿主細胞に侵入する際に補受容体として利用するCCケモカイン受容体5(CCR5)に対して選択的に作用するCCR5阻害薬である.既存の抗HIV薬とは異なり,細胞膜上のCCR5に結合してHIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120とCCR5との結合を遮断することによりCCR5指向性HIV-1の細胞内への侵入を阻害するという新規作用機序で,抗ウイルス作用を発揮する.CCR5指向性実験室HIV-1株および臨床分離株を用いた抗ウイルス作用の検討では,マラビロクはすべてのクレードのCCR5指向性HIV-1に対してほぼ同等の抗ウイルス作用を示した.一方,CXCR4指向性および二重指向性HIV-1に対しては作用を示さなかった.また,逆転写酵素阻害薬耐性またはプロテアーゼ阻害薬耐性ウイルスに対しても野生型と同等の抗ウイルス作用を示した.In vitroでの検討で耐性ウイルスの出現が確認されたが,これらはCCR5指向性を維持しており,指向性変化は認められなかった.他の抗HIV薬による治療歴がある最適背景療法(OBT)実施中のCCR5指向性HIV-1感染患者を対象に行われた主軸となる2つの臨床試験では,ベースライン値から投与48週目までのHIV RNA量の減少量は,OBT単独群(プラセボ)に対し,マラビロク300 mg 1日1回または2回投与群で有意に減少幅が大きく,また,CD4リンパ球の増加量においてもプラセボ群より有意に高い結果が得られ,OBTにマラビロクを上乗せすることでOBT単独よりも優れたウイルス学的,免疫学的効果が得られることが示された.マラビロクは,新しい作用機序を有する抗HIV薬であり既存の薬剤に耐性のHIV感染症にも有効であることが示唆され,HIV感染の薬物治療の新たな選択肢として重要な役割を果たすことが期待される.
著者
檜杖 昌則 越智 靖夫 伊村 美紀 山上 英臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.4, pp.203-213, 2014 (Released:2014-04-10)
参考文献数
26

フェソテロジンはムスカリン受容体拮抗作用を作用機序とする新規過活動膀胱治療薬である.経口投与後,速やかに活性代謝物である5-ヒドロキシメチルトルテロジン(5-HMT)に加水分解され,血液中にフェソテロジンは検出されない.5-HMTは,ムスカリン受容体のいずれのサブタイプ(M1~M5)に対しても高い親和性を有し,各サブタイプ発現細胞でのアセチルコリン誘発反応,摘出排尿筋のカルバコール誘発収縮および電気刺激誘発収縮を抑制した.In vivoでは,無麻酔ラット膀胱内圧測定試験で,排尿圧力低下,膀胱容量増加および収縮間隔延長作用を示した.さらに,ヒト排尿筋,膀胱粘膜および耳下腺組織における結合親和性,ならびにアセチルコリン誘発膀胱収縮および電気刺激誘発流涎に対する抑制作用の比較から膀胱組織選択的な抗コリン作用が示唆された.また,中枢移行性が低いことが確認され,フェソテロジン投与による中枢のムスカリン受容体機能への影響は少ないと考えられた.フェソテロジンの臨床投与量は4 mgと8 mgである.臨床薬理試験で血漿中濃度は,2用量間で2層性を示した.臨床試験で,フェソテロジンは,プラセボやトルテロジンより過活動膀胱の症状を有意に改善し,その効果は用量依存的であった.実臨床に近い可変用量のデザインを用いた治療満足度試験では,患者の半数が8 mgへの増量を希望し,その結果8割の患者がフェソテロジンの治療に満足と回答した.この結果より,4 mgで効果に不満足でも忍容性がある場合は,増量により満足に至る可能性が示された.日本人を対象とした長期試験では,遅発性の有害事象は認めず,忍容性は良好であった.フェソテロジンは,患者の状態に合わせ4 mgと8 mgを有効に使い分けることで,患者の治療満足度を向上し,OAB治療で重要な治療継続率の向上に繋がることが期待される.