著者
江口 太助 櫨木 大祐 上野 健太郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.777-781, 2018-07-15 (Released:2019-08-22)
参考文献数
10

今回,我々は胸痛の訴えにより,右冠動脈左バルサルバ洞起始症と診断された2例を経験したので若干の文献的考察も加え報告する. 症例1は8歳,男児,3歳時に川崎病に罹患し,免疫グロブリン超大量療法で治癒した.当初から左冠動脈主幹部が直径3 mm程度と太かったが,特に症状も認めず経過した.8歳時,習い事の水泳中に胸痛を認め当院を受診した.心臓超音波検査で左冠動脈が太く,右冠動脈の起始が確認できないので造影CTを施行し診断し得た. 症例2は11歳,男児,サッカーの練習中に胸痛を認めるようになり当院を受診した.心臓超音波検査で右冠動脈起始部を確認できず,通常より左方にあった.症例1の経験を踏まえ,造影CTを行い診断し得た. いずれの症例も各種検査で心筋虚血の所見はなく,手術の方針とはしなかったが,胸痛の訴えがあるため運動制限を行い,致死的な合併症である頻脈性不整脈の予防にβ遮断薬の内服を行い,注意深く経過観察する方針とした.右冠動脈左バルサルバ洞起始症は稀な疾患で,左冠動脈右バルサルバ洞起始症に比して予後良好なものとされているが,狭心症や心筋梗塞,不整脈,突然死が報告されており,イベント前の発見が重要と思われた.また,安静時心電図では異常は出ないため,学校心臓検診での発見が困難であり,胸痛などを認める症例は,積極的に心臓超音波検査を行い,冠動脈異常も念頭に入れた診療をすることが望ましいと思われた.