著者
櫻井 大樹
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-295, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
7

頭頸部扁平上皮癌の進行例は,近年の集学的治療によって局所制御率の改善がみられているが,いまだ遠隔転移は大きな予後悪化因子である。予後の向上のため,また治療後に問題となる機能や形態の温存のために,現行の標準治療に加えて新規治療法が求められる。当科では頭頸部扁平上皮癌患者を対象に,NKT細胞のリガンドであるα-Galactosylceramide(αGalCer)を樹状細胞に提示させ鼻粘膜下に投与する免疫細胞治療の開発を行ってきた。これまでの臨床試験により安全性,免疫応答の誘導,再発患者での腫瘍縮小効果が認められている。現在,標準治療後の寛解症例を対象とし,再発予防を目的にアジュバント療法としてランダム化二重盲検比較試験が先進医療として進められている。近年,癌は自ら様々な抗腫瘍免疫の抑制機序を用いて体内の免疫監視機構から巧みに逃れていることが示されている。その免疫抑制機序の一つとして,制御性T細胞(Treg)や骨髄性抑制細胞(MDSC)など免疫抑制細胞の誘導が指摘されている。我々は頭頸部扁平上皮癌患者においてこれら免疫抑制細胞が有意に増加し,その増加は予後悪化因子になることを見出している。免疫抑制細胞の制御など新たな治療戦略は,抗腫瘍免疫活性を増強し予後を改善させる可能性が期待される。現在当科で進められているNKT免疫細胞治療と新たな治療とを組み合わせることで,進行癌への対応,予後の改善を期待し,今後の臨床試験への展開を検討している。