- 著者
-
櫻井 庸明
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 若手研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
冷結晶化は“昇温に伴って融点以下で起こる結晶化”とされており、準安定相である過冷却非晶質固体を形成したのちに昇温時により安定な相である結晶相へと相転移する挙動である。熱の貯蔵という応用の側面からもこの冷結晶化は注目すべき現象であるが、高分子化合物と比較すると、低分子有機材料においては珍しい挙動であり、どのような分子設計を採用すれば冷結晶化を示す材料を実現できるかについての知見は未だに乏しい。今回、溶液中で自由回転するフェロセン骨格の有する回転自由度に注目し、結晶化を促すドデシル側鎖を有する発達共役分子ユニットであるオリゴチオフェンと連結したπ-Fc-π型の化合物を合成したところ、0.1 K/minまで低速で降温した際も非晶質固体を形成し、その後の昇温時に冷結晶化を起こすことが確認された。π-Fc-πは等方相から冷却されると、さまざまなコンフォメーションの分子が共存することにより過冷却非晶質固体を形成しやすく、その後に昇温することで。π-Fc-π分子の折り畳みが誘起され、ラメラ状に分子が自己集積し結晶化するという機構が推定される。回転のみという制限された自由度を有するフェロセンは、冷結晶化を起こし、熱貯蔵が可能な材料の開発に有用なモチーフであり、本系は、凝集相においてもフェロセンが回転自由度を有していることを熱制御して利用した希有な例である。この固相におけるFc部位の回転運動は、(Fc-π)n型の多関節高分子へと拡張することでフォルダマーの分子設計として有用であると予測したが、現在のところは、合成した高分子は結晶化に至らず、アモルファス相の形成のみが観察された。複数のFc部位の回転自由度に由来するエントロピーが凝集相構造を支配していることが推測される。一方で、溶液中においては当該高分子の折り畳みに伴うオリゴチオフェンユニット同士の積層が吸収スペクトル変化から示唆された。