著者
櫻井 捷海 三井 隆久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、半導体レーザー(LD)をヘリウム温度にまで冷却し、電子緩和時間が非常に長くなった状態での超低電流でのレーザー発振を実現し、発振スペクトル解析、端子電圧の解析、および、発振光自体をプローブ光として半導体レーザー媒体(主としてGaAs、AlGaAs,AlGaInP系)のLD発振現象と低温物性の研究を行うことを目的としている。ヘリウム温度下で量子構造半導体レーザーに磁場を加え、メゾスコピック物理系と光の相互作用系として極低温の磁場下での半導体レーザー発振を見直すことによって、新しい物理が開けることを期待した。極低温でLDのV-I,P-I特性の磁場効果などの多数のパラメータを同時測定できるコンピューター制御の計測システムを製作し、実験した。AlGaInPの量子井戸構造LDで、励起電流を一定して、出力光を内部フォトダイオード(PD)で測定しながら、磁場掃引したところ、多くのLDで出力の増加する共鳴ピークを0.3-0.4T付近に観測した。共鳴の幅は4Kで0.1-0.15Tであり、温度上昇ともに広がり、20K程度で共鳴は消失する。この共鳴の磁場ではサイクロトロン共鳴周波数とモード間ビ-ト周波数とが等しい。結晶の対称性よりモード間ビ-ト電場が接合面に平行となる。また、量子井戸構造のためにサイクロトロン運動は接合面に閉じこめられる。磁場と接合面とのなす角に対する共鳴の依存性がこれらの事実から予想される形を示したので、非線形効果によるモード間ビ-トとサイクロトロン共鳴とが結合したモード同期現象の1つであると結論づけた。しかし、この結論は、本年2月の最終のだめ押しの発振前の低励起のLD実験でこの現象が見つかっり、さらに外部から光励起された弱励起LDとPDでも見つかり、覆された。また、低電駆動のLDの端子電圧Vが磁場に関した部分dV/dBにも共鳴的な振る舞いが観測された。これらの原因は今のところ不明であるが、この新現象の解明の実験を行っている。