著者
首藤 誠 正岡 光智子 武智 晶子
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】日常の診療において、観血的動脈圧が非観血的動脈圧と明らかに異なることはよく経験する。その原因の一つは、圧モニタリングキットが有する周波数特性と動脈血圧波形そのものが持つ周波数特性との関係によって共振現象が生じることと考えられている。またその要因として、耐圧チューブの長さやサンプリングシステムの挿入、体液量の変化や麻酔覚醒時の交感神経活性化状態などが考えられている。その共振現象を抑える制動素子としてはROSE(Argon Medical Devices, TX、 USA)ダンピングデバイスが市販されているが生体での有効性については報告が少ない。【目的】今回、麻酔覚醒時(吸入麻酔の中止から抜管までの段階)に観血的動脈圧と非観血的動脈圧の間に明らかな差が生じている場合、ROSEの回路内挿入によってその差が補正されるかどうかを調べた。【方法】最近3か月間に、麻酔覚醒時の観血的動脈圧が非観血的動脈圧よりも明らかに高かったがん根治術症例19例において、ROSEが観血的動脈圧の波形及び値を補正できるかを調べた。記録はROSEの観血的動脈圧測定キットへの挿入直前と直後にマンシェットによる非観血的動脈圧測定を行い、モニタの表示画像(数値及び波形)を保存して解析に用いた。ROSE挿入前後の観血的(Invasive)動脈圧の収縮期圧、拡張期圧、平均圧をそれぞれpre SIとpost SI、pre DIとpost DI、pre MIとpost MIとし、対応する非観血的(Non-invasive)動脈圧をそれぞれpre SNとpost SN、pre DNとpost DN、 pre DIとpost DIとした。観血的と非観血的動脈圧の差及びROSE挿入前後の動脈圧の変化についてpaired T testによる統計学的検討を行った。【結果】ROSE挿入直前の収縮期血圧はpre SN=125±28(mean±SD)mmHg、pre SI=154±31mmHgで観血的動脈圧が有意(p<0.01)に高かった。またROSE挿入直後の観血的動脈圧はpost SI=125±27mmHgで挿入直前に比べて有意に(p<0.01)低下し、非観血的動脈圧post SN=122±27mmHgとの差は認められなかった。ROSE挿入前にみられた観血的動脈圧波形のオーバーシュートは挿入後明らかに減少した。【結論】麻酔覚醒時の交感神経亢進やシバリングによって観血的動脈圧波形がオーバーシュートし、特に収縮期血圧が非観血的動脈圧よりも高く測定されることはよく経験される。今回の研究で少なくともダンピングデバイスROSEの挿入によってその差が是正されることが確認できた。