著者
塚本 増久 正野 俊夫 堀尾 政博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.235-252, 1980-06-01

イエバエの性決定様式には通常のXX-XY型の性染色体によるもののほかに, 常染色体上に優性の雄性決定因子が乗ったA^M型や超優性の雌性決定因子Fなどの存在が知られている. そのうちII^M型とIII^M型が最も多く報告されている。これに対しI^M型は, 極く最近フイージー島のイエバエ集団から発見されたことが学会で報告されたのみである. 北九州市で1979年秋に野外から採集された2つの集団を用い, その性決定様式の遺伝について研究を行った結果, 多数のII^M型やIII^M型の固体に混ってI^MおよびV^M型の雄も含まれていることが判明した. 従って, これは日本最初のI^M型イエバエの発見であるばかりでなく, 世界でも2番目の珍らしい記録である. また,幼虫の神経節の染色体分析の結果,そのほとんどがXX型の核型を示す個体ばかりで,時たまXO型やXXX型の個体が検出されることもあった。このことは,北九州市の野外で採集された2つのイエバエ集団の性決定様式が主として常染色体上の雄性決定因子により支配されていることを示した交配実験の結果を,細胞学的研究からも支持するものである.なお,採集後間もなく,成虫の体が褐色を示すミュータントが分離固定したが,遺伝学的研究の結果,第3染色体上の劣性遺伝子brown-bodyの新らしい対立遺伝子であることが判明したので,bwb^79kと命名された