著者
堀尾 政博
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.299-314, 1981-09-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

硝酸塩中毒は, 反芻動物では国の内外を問わず多発しているが, これは大量の糞尿を施肥した土地に生育した作物を摂食した際, その中に多量の硝酸塩が含まれていたことに起因することが報告されている.すなわち, 反芻動物では摂取された硝酸塩は, 第1胃内の細菌によって還元される過程で中間代謝産物としての亜硝酸に変化する. 硝酸およびその還元物質は, 第1胃壁から速かに吸収されて血液中に入るが, 亜硝酸はさらに赤血球内でヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビン(MHb)を形成する. これは酸素運搬能カを持たないため組織は酸素欠乏におちいり, 動物は死に至る. この中毒は一般にヒトでは発生しないと思われているが, 近年発ガン物質N-ニトロソアミンの先駆体となっていると言われている硝酸塩等について, ヒトでも再考する必要のある事例が知られてきた. その意味で反芻動物は現象が強調された1つのモデルとしてみなすことができるので, 硝酸塩の代謝, MHbの消長およびそれらが生体に与える影響などについてここに総説としてまとめて紹介した.
著者
真喜屋 清 塚本 増久 堀尾 政博 黒田 嘉紀
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.203-209, 1988-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
5 7

福岡県遠賀郡岡垣町に在住の男性(55才)が, 鼻内異物感を伴う鼻出血と著しい鼻汁の分泌に悩まされた後, 昭和62年7月に右側鼻内から1匹のヒル(蛭)を取り出した. 病院受診時には鼻内所見で鼻中隔弯曲が見られた他は, 左右鼻腔内に潰瘍・糜爛や出血がなく, 耳内・口腔内にも異常は認められなかった. ホルマリン固定された虫体は, 黒褐色で体表には特定の模様がなく, 体長3.5cm, 最大体幅が1.2cmであった. また, 1)耳状突起がない, 2)5対の眼点は第3と第4眼点が1環節によって隔てられる, 3)額板には歯が認められない, などの特徴によって, ハナビルDinobdella feroxと同定された. このヒルは東南アジアに広く分布し, わが国でも人体寄生が知られているが, 九州では南九州からだけである. この患者は九州北部の温泉地で渓流水から感染したものと推察されるので, 温泉・秘湯ブームなどで渓谷にわけ入る風潮の盛んな昨今, 注意を払う必要がある.
著者
堀尾 政博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.299-314, 1981-09-01

硝酸塩中毒は, 反別動物では国の内外を問わず多発しているが, これは大量の糞尿を施肥した土地に生育した作物を摂食した際, その中に多量の硝酸塩が含まれていたことに起因することが報告されている.すなわち, 反芻動物では摂取された硝酸塩は, 第1冑内の細菌によって還元される過程で中間代謝産物としての亜硝酸に変化する. 硝酸およびその還元物質は, 第1胃壁から速かに吸収されて血液中に入るが, 亜硝酸はさらに赤血球内でヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビン(MHb)を形成する. これは酸素運搬能カを持たないため組織は酸素欠乏におちいり, 動物は死に至る. この中毒は一般にヒトでは発生しないと思われているが, 近年発ガン物質N-ニトロソアミンの先駆体となっていると言われている硝酸塩等について, ヒトでも再考する必要のある事例が知られてきた. その意味で反芻動物は現象が強調された1つのモデルとしてみなすことができるので, 硝酸塩の代謝, MHbの消長およびそれらが生体に与える影響などについてここに総説としてまとめて紹介した.(1981年5月25日受付)
著者
真喜屋 清 塚本 増久 堀尾 政博 黒田 嘉紀
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.203-209, 1988
被引用文献数
1 7

福岡県遠賀郡岡垣町に在住の男性(55才)が, 鼻内異物感を伴う鼻出血と著しい鼻汁の分泌に悩まされた後, 昭和62年7月に右側鼻内から1匹のヒル(蛭)を取り出した. 病院受診時には鼻内所見で鼻中隔弯曲が見られた他は, 左右鼻腔内に潰瘍・糜爛や出血がなく, 耳内・口腔内にも異常は認められなかった. ホルマリン固定された虫体は, 黒褐色で体表には特定の模様がなく, 体長3.5cm, 最大体幅が1.2cmであった. また, 1)耳状突起がない, 2)5対の眼点は第3と第4眼点が1環節によって隔てられる, 3)額板には歯が認められない, などの特徴によって, ハナビル<i>Dinobdella ferox</i>と同定された. このヒルは東南アジアに広く分布し, わが国でも人体寄生が知られているが, 九州では南九州からだけである. この患者は九州北部の温泉地で渓流水から感染したものと推察されるので, 温泉・秘湯ブームなどで渓谷にわけ入る風潮の盛んな昨今, 注意を払う必要がある.
著者
砂原 俊彦 堀尾 政博 橋爪 真弘
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

バングラデシュの首都ダッカにおける過去20年間の気象データとコレラやその他の下痢症患者数のデータベースを構築した。このデータを用い、降雨量および気温と患者数の関連を時系列統計解析を行なって調べた。その結果、週平均降雨量の増加によりコレラ患者数は14%増加し、コレラ以外の下痢症は5%増加することが明らかとなった。逆に、平均降雨量が減少してもコレラ患者数が増加することも明らかとなった。森林環境を好むマラリア媒介蚊Anopheles dirusのベトナムの森林伐採地における分布を、高解像度の衛星画像と標高データから得られる地被覆および地形の情報を利用して解析した。一般化線形モデルにより、この蚊が森林から20km程度の範囲では自然林に依存していないこと、深い谷があるような地形に多いこと、ゴムの植林地は生息に不適だがカシューナッツの植林地は好適であるらしいことが明らかになった。この地域のAn. dirusは森林から農地へと生息環境を移行させており農薬に用いられるピレスロイド系殺虫剤への抵抗性の獲得が懸念される。都市環境で人工容器を主な発生源とするネッタイシマカに媒介されるデング熱動態の数理モデルを、マイクロソフトエクセルをベースにして開発した。気温、湿度、降雨量が蚊の発生源の数や蚊の生存率、蚊の体内でのウィルスの潜伏期間に影響するというメカニズムを微分方程式で表した。容器の数などを未知のパラメータとし、適当な初期値を代入したモデルに現実の気象データを入力し、計算されたデング患者と現実のデング患者との差が最小になるように未知のパラメータを決定するSimplex法をプログラムに組み込んだ。このモデルを用いてデング熱患者を最小にする殺虫剤噴霧のタイミングを計算したところ、先行研究で示されたものとは異なり患者数のピークよりも前が最適であると結論された。
著者
塚本 増久 正野 俊夫 堀尾 政博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.235-252, 1980-06-01

イエバエの性決定様式には通常のXX-XY型の性染色体によるもののほかに, 常染色体上に優性の雄性決定因子が乗ったA^M型や超優性の雌性決定因子Fなどの存在が知られている. そのうちII^M型とIII^M型が最も多く報告されている。これに対しI^M型は, 極く最近フイージー島のイエバエ集団から発見されたことが学会で報告されたのみである. 北九州市で1979年秋に野外から採集された2つの集団を用い, その性決定様式の遺伝について研究を行った結果, 多数のII^M型やIII^M型の固体に混ってI^MおよびV^M型の雄も含まれていることが判明した. 従って, これは日本最初のI^M型イエバエの発見であるばかりでなく, 世界でも2番目の珍らしい記録である. また,幼虫の神経節の染色体分析の結果,そのほとんどがXX型の核型を示す個体ばかりで,時たまXO型やXXX型の個体が検出されることもあった。このことは,北九州市の野外で採集された2つのイエバエ集団の性決定様式が主として常染色体上の雄性決定因子により支配されていることを示した交配実験の結果を,細胞学的研究からも支持するものである.なお,採集後間もなく,成虫の体が褐色を示すミュータントが分離固定したが,遺伝学的研究の結果,第3染色体上の劣性遺伝子brown-bodyの新らしい対立遺伝子であることが判明したので,bwb^79kと命名された
著者
塚本 増久 堀尾 政博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.299-308, 1985
被引用文献数
1

オオカ類の幼虫は肉食性で他の蚊の幼虫を捕食し蚊媒介性の疾病を減少させるので, 人類にとっては益虫である. このオオカを蚊の生物学的防除に利用しようとする試みは古くからあったが, 実際には飼育が困難で容易に産卵せず, なかなか増殖しないので利用しにくく, あまり高く評価されていなかった. 最近われわれの研究室ではオオカの室内飼育系統を確立する技術を開発改良し, その実証として日本産のオオカの全4種類を系統化することに成功した. そこでこの方法を用いればどのようなオオカでも大量に飼育増殖させることが可能な筈で, 正に実用段階に入ったものといえる. ここにオオカを用いる生物学的防除法に新しい観点から考察を加え, 環境汚染や公害の恐れがない空飛ぶ生きた殺虫剤として再認識すべきであるというわれわれの主張を述べ, 論説的な総説を試みた.(1985年5月27日 受付)
著者
真喜屋 清 堀尾 政博 塚本 増久
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.43-52, 1990-03-01

皮下末梢血における糸状虫ミクロフイラリア(Mf)の分布様式を明らかにし, 吸血蚊への取り込み数を検討するために, ネッタイシマカに大糸状虫感染大を吸血させる実験を行った. 体表の約50カ所を剃毛した感染大を麻酔して吸血させ, 吸血前後の蚊の体重を正確に秤量することによって, 蚊1匹当りのMf取り込み数と, 単位吸血量1mg当りのMf取り込み密度とを調べた. Mf取り込み密度は吸血部位によって著しいばらつきを示し, 負の二項分布に適合する集中型の分布をするものと推定された. 吸血場所によってはMf取り込み密度に有意差が認められたが, 繰り返し実験では再現性のある結果が得られないことから, 吸血場所間のこの差異は一貫性のあるものではないと推察された. 蚊の吸血量が増加すると, 蚊1匹当りのMf取り込み数が増えるだけでなく, Mf取り込み密度も高くなるのが観察された. 同一の部位で別の蚊に取り替えて吸血させた実験でも, Mf取り込み密度は蚊の吸血量が多い時に高くなるのが認められた.(1989年8月15日 受付, 1989年12月14日 受理)