著者
秋山 道彦 武井 澄江 斉藤 こずゑ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.265-272, 1982-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

本研究では日本語を話す子どもたちに命題文の証明課題と疑問文に対する応答課題を与え, 証明の過程と応答の過程に関する3つの仮説-等価仮説, 証明原型仮説, 疑問文単純仮説を検討し, さらに英語を話す子どもたちの結果の比較を通して言語発達の普遍性の仮説の検討を行った。どちらの課題においても肯定文と否定文が含まれ, そのそれぞれには真の文と偽の文が含まれていた。結果は日本語を話す子どもたちにとっては, 疑問文に対する応答の方が命題文の証明よりもむずかしく, 証明原型仮説を支持した。これは日本語の否定疑問のあいまいさによるものと解釈された。以前に行われた英語を話す子どもの結果が疑問文単純仮説を支持したことから, なぜ異なった言語で異なった仮説が支持されたのか考察を行った。その結果, 両言語の語順のちがい, 命題証明過程と疑問文応答過程の心理学的なちがい, 証明課題と応答課題の頻度のちがいなどが, 理由としてあげられた。真偽の次元を考慮すると, 特に4歳児の否定命題の課題と否定疑問文の課題で, 従来英語圏で行われてきた研究結果と反対の結果が出た。すなわち日本語を話す子どもたちにとっては, 偽の否定命題の方が真の否定命題よりもむずかしかった。この点を説明するためにモデルが提出された。モデルの主要な特徴は, 偽・肯定命題と真の否定命題を聞いたとき子どもはそれに対応する真の否定形をもった知識を表象として形成することと, 語順の最後にくる否定詞をさきに処理することであった。このモデルは英語圏で検案されたモデルと比較され, 言語発達・言語処理は言語により異なること, 普遍性の仮説は常に成立するわけではないことが結論された。