著者
寺田 勝彦 武田 芳夫 福田 寛二 田中 清介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.362-367, 1998-09-30 (Released:2018-09-25)
参考文献数
19
被引用文献数
4

人工股関節置換術後のトレンデレンブルグ徴候の出現の有無を,股関節外転筋・内転筋の筋機能から明らかにすることを目的とした。対象は当院で変形性股関節症の診断のもとに,人工股関節置換術を施行した35例39関節(トレンデレンブルグ徴候陽性18例20関節,陰性17例19関節)であった。術後8週時の股関節の筋機能を,等速運動機器で測定した。得られた筋トルク曲線より,筋力的要因として股関節内外転0°の外転筋・内転筋トルク値,また筋収縮的要因として外転筋・内転筋のピークトルク値までの立ち上がり時間の4指標を求めた。トレンデレンブルグ徴候陽性群および陰性群間には,外転筋・内転筋トルク値に差は認めなかった。しかし,トレンデレンブルグ徴候陽性群では外転筋の立ち上がり時間が有意に延長し,内転筋の立ち上がり時間が有意に短縮していた。また筋機能から,トレンデレンブルグ徴候陰陽性の判別の可能性を検討するために判別分析を行った。外転筋トルク値と立ち上がり時間の2指標だけでは,トレンデレンブルグ徴候陰陽性の判別は明確ではなかった。しかし,内転筋トルク値と立ち上がり時間を加えた4指標においてはトレンデレンブルグ徴候陰陽性の判別が明確で,39関節中36関節(92%)で判別可能であった。したがって,人工股関節置換術後のトレンデレンブルグ徴候の出現の有無は外転筋力の低下だけで判断できず,個々の外転筋・内転筋の筋機能として,両筋の力と立ち上がり時間の不均衡,すなわち瞬発力の不均衡によって引き起こされることが示唆された。