- 著者
-
武脇 義
斉藤 英毅
志水 泰武
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.61-68, 2002 (Released:2018-05-04)
- 参考文献数
- 57
恒温動物は,一般に平均37℃の体温を維持していると理解されている。しかし,この中には冬眠動物という例外的な存在が含まれている。ハムスターやリスなどの小型哺乳類に見られる冬眠は,クマなどの大型哺乳類の冬眠に対し「真の冬眠」と呼ばれ,体温は5〜10℃まで下降する。この時期,冬眠動物たちの心拍数,呼吸数そして血圧も激減することが知られている。にもかかわらず,末梢の血管抵抗の値に関しては活動期のものとほとんど変わらないことが確認されている。この原因として,血液粘稠度が体温の低下により上昇し血管抵抗が維持されるというもの,あるいは血管平滑筋のアドレナリンに対する感受性が高まり収縮力が増強されるというもの,などが今までの認識であった。ところが最近の薬理学的および電気生理学的研究によると,このような末梢血管抵抗の維持には血管を支配する交感神経の伝達機構の増強や血管内皮細胞による弛緩機能の低下も重要な関わりを持っていることが明らかになってきた。本稿では,冬眠下動物の末梢血管抵抗の維持に関して,特に血管交感神経と内皮細胞の機能変化に焦点をあて,最近の知見を中心に考察してみたい。