- 著者
-
水川 克
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2010
グリオーマはグリア細胞由来の原発性脳腫瘍で、原発性脳腫瘍の約1/4を占める悪性脳腫瘍である。Olig2はグリア前駆細胞に発現し、オリゴデンドロサイトの分化に関与する転写因子である。しかし、Olig2はオリゴデンドログリオーマだけでなく、astrocytomaにも発現している。オリゴデンドログリオーマはアストロサイトーマよりも予後良好であることが知られており、オリゴデンドログリオーマではアストロサイトーマと遺伝子の発現パターンが異なっている。Olig2はグリア細胞の細胞周期を調節しているとも報告されている。そこで、悪性アストロサイトーマのうち、グリオブラストーマ(GBM)および退形成アストロサイトーマ(AA)でのOlig2の発現率と予後について詳細に検討し、Olig2遺伝子導入が治療ターゲットになりうるかについて検討した。(結果)対象はGBM : 43例、AA : 75例。118例のパラフィン包埋されたGBMあるいはAAの腫瘍サンプルを解析。症例は、1987~2007年に手術・治療を行い、追跡可能であった症例。平均Olig2陽性細胞率はGBM : 16. 0%(0~ 64. 7%)、AA : 45. 11%(0. 1~ 89%)であり、AAでは平均陽性細胞率が高かった。GBMではOlig2陽性細胞率の差による予後の差を認めなかったが、AAではOlig2陽性細胞率が40%以上と40%未満で分けると、生存期間中央値は40%以上の群で98. 6ヶ月、40%以下の群で30. 6ヶ月であり、2年生存率は40%以上の群で61%、40%以下の群で31%であり、有意に生存期間の延長を認めた。以上より、AAではOlig2発現細胞が多い方が予後良好である傾向があり、グリオーマにおいてOlig2を発現させることで、腫瘍の悪性度が低下する可能性があることが示唆された。(結論) Olig2の発現は、GBMよりもAAの方で有意に高く、Olig2の発現が高いAAは、発現量の低いAAに比べると、統計学的に生存期間が長かった。一方、GBMでは、Olig2の発現は予後と相関しなかった。以上より、AAではOlig2の発現を誘導することで、予後が改善する可能性があると思われた。