著者
水谷 尚雄
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.506-512, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

呼吸器外科で手術部位感染(surgical site infection,以下SSI)として発生する膿胸の頻度は高くはないが,MRSA 膿胸を発生すると治療に難渋する.当院で過去10 年間に経験したSSI のMRSA 膿胸3 例について検討し,その対策を考察した.対象:3 症例とも診断確定とともにバンコマイシン(以下VCM)の全身投与を行った.症例1.小型肺癌に対する区域切除後に発症.切開創のSSI と診断して対処したために有効な胸腔ドレナージが遅れ治療に難渋した.菌は陰性化することなく治癒した.症例2.塵肺に合併した進行肺癌の肺葉切除後に発症.気管支形成を行い情報ドレーンとして胸腔ドレーンを長期間留置した.VCM で菌が陰性化せずリネゾリドを使用し陰性化し治癒した.症例3.続発性気胸の症例.胸腔鏡下肺部分切除を施行し術中所見から胸腔内感染を疑った.胸腔ドレーンを予防的に留置したが発症した.ドレナージ不良に対してウロキナーゼによる線維素溶解療法が有効であった.菌は陰性化することなく治癒した.結論:(1)手術時に留置した胸腔ドレーンを情報ドレーンとして長期留置すると逆行性感染を起こす可能性がある.(2)肺切除量を少なくする術式は膿胸の発生と進展の予防に有効な可能性がある.(3)膿胸の病期II 期以降に起こるドレナージ不良に対して線維素溶解療法は胸腔鏡手術に優先して試みる価値がある.(4)抗MRSA 薬の投与は全身への炎症の波及予防には必要であるが,中止の基準は菌の陰性化を目標とせず臨床経過から判断するべきである.