著者
水谷 明子
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究ではハンミョウ(Cicindela chinensis)の幼虫を材料として運動検出と距離測定の視覚神経機構を調べた。ハンミョウの幼虫は地面の巣穴でエサとなる昆虫等を待伏せる。適当な大きさの昆虫等が近づくと跳び出しこれを捕獲するが、大きな物体を近づけると巣穴の奥に逃避する。この捕獲行動と逃避行動の切換えを調べることで、視覚機構を調べた。幼虫は6対の単眼をもつが、そのうち大きな2対の単眼で頭上を見ている。ダミ-標的に対する行動から、幼虫は自身が跳び上がれる高さ以下の標的にのみ捕獲行動をし、視角が同じでもそれより高い標的には逃避行動を示した。このことは、幼虫の行動が標的の高さで切換わることを示した。2対(4個)の単眼の視野測定から、複数の単眼の刺激の時間パターンがこの切替に関わることが示唆された。隣接単眼の視野は頭の近くでは重複せず、高いところでは大きく重複していた。このことから、隣接単眼が僅かな遅延でほぼ同時に刺激されれば逃避行動、順番に刺激されれば捕獲行動を引起こすとするモデルを提唱した。現在このモデルの鍵となる高さに応じて応答特性を変化させるニューロンを脳内で生理学的に検索している。視覚刺激要因のうち標的の運動速度は行動の切替には直接関与しないが、静止した標的は何れの行動も引起こさない。従って、視覚行動には標的の動きが必須である。電気生理学的に標的の動きに特異的に応答するニューロンを検索し、視葉内に数種の運動感受性ニューロンを同定し、その形態を明らかにした。現在、運動特異的ニューロンの形成回路を検索中である。