著者
松浦 啓一 後藤 孝信 川口 恭輔 水野 征一 山本 直之
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.97-106, 2017

<p> <i>Lactobacillus helveticus</i>発酵乳から最初に単離された血圧降下ペプチド,Val-Pro-Pro (VPP)とIle-Pro-Pro (IPP)に関して様々なチーズについて分析した。15種類のヨーロッパタイプのチーズを選び,これら2種類の血圧降下ペプチドをLC-MSを用いて分析した。オランダチーズのライペナーとオールドアムステルダムには高含量のVPP/IPPを,100g当たりに19.9/0.9と10.5/0.9mgづつ含んでいた。スイスチーズのエメンタールとグリュイエールには同様にVPP/IPPをそれぞれ100g当たりに8.0/1.1と5.2/1.2mgづつ含んでいた。注目すべき点として,<i>Penicillium roqueforti</i>で製造される幾つかのフランスチーズ(ブルー・ド・オーベルニュとブルー・ド・カース)にも,高濃度の両ペプチドが,100g当たりにそれぞれ,13.1/31.0と9.9/19.2mgづつ含んでいた。VPPに対するIPPの比はドイツやスイスチーズにおいて,ブルーチーズのものに比べて低かった。ブルーチーズにおける両ペプチドの産生の理由を理解するために,以前, <i>Aspergillus oryzae</i>内のIPPの加工に重要な蛋白質分解酵素であるニュートラルプロテアーゼI(NPI)とロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)について <i>Penicillium</i>属での存在をBLAST検索した。その結果,<i>A. oryzae</i>のNPIに36%の相同性をもつホモログが<i>Penicillium subrubescens</i>の菌体外金属プロテアーゼ-4に確認された。さらに,<i>A. oryzae</i>のLAPは<i>P. roqueforti</i>の未同定の蛋白質と同一であった。これらのことから, <i>A. oryzae</i>のNPIとLAPに相同性を持つ<i>Penicillium</i>のプロテアーゼがブルーチーズの熟成中の血圧降下ペプチドの生成に関与することが示唆された。</p>