著者
水野 昭憲
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.11-17, 1995-08
被引用文献数
2

白山山中では, 1960年代に出作り, 焼き畑, 炭焼きが行われなくなって以来ニホンザルによる農作物被害の発生はみられなかったが, 1980年代以降再び猿害の発生が始まり年々拡大しつつある.その原因として, (1)戦前には普通に行われていたニホンザルの捕獲が禁止され, ニホンザルの個体数が増加し, 集落周辺まで生息するようになったこと, (2)過疎によって山村の人口構成が変化し, 森林への人の入り込みが減少し, ニホンザルが人を恐れなくなったこと, (3)観光業への期待と動物愛護思想の普及によってニホンザル駆除に反対する風潮が支配的となり, ニホンザルの人慣れが進んだこと, (4)1960年代以降それまでニホンザルを里から駆逐していた野犬の駆除と飼い犬の放飼の禁止が徹底し, ニホンオオカミ絶滅以降, ニホンザルが恐れる捕食種がいなくなったこと, が指摘できる.なかでも犬による影響は重要であったことを強調したい.