著者
水野 良亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】投球障害を有する選手には肩関節可動域制限や筋力低下がみられ,これらを発生要因と考えられている。しかし,これらは医療機関を受診した選手の病態に基づいた報告が多く,肩関節機能の低下は痛みに伴う結果である可能性もある。野球の現場では,選手の肩関節機能は練習継続など様々な要因によって日々変化しており,かつ一日の中でも変動していると実感することが多い。このような現場における高校野球選手の肩関節可動域についての日常的かつ経時的な変化に関する研究は少ない。そこで,本研究では7日連続で高校野球投手の肩関節外旋・内旋可動域を測定し,その経時的変化について分析した。</p><p></p><p>【方法】対象はT高校硬式野球部の投手8名(2年生2名,1年生6名)とし,測定は5日間の夏季合宿とその前後1日ずつの7日間連続で行った。測定時間は1日の中で①練習前(6~9時),②練習中(9~17時),③練習後(17~22時)の3回とした。また4日目は悪天候により屋外で活動できず,いわゆるノースローデーとなった。測定項目は肩関節外旋可動域と肩関節内旋可動域とし,投球側のみの測定とした。測定肢位は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の方法に準じて肩90度外転位,肘90度屈曲位とし,背臥位で他動的に最大位を保持してデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフト(ImageJ)を用いて,画像から肩関節外旋可動域・肩関節内旋可動域を算出した。7日間の測定期間から1日目と7日目の結果を除外し,測定時間の条件が統一可能であった2日目から6日目の練習前のデータについて分析した。統計分析には一元配置分散分析及びTukey-Kramer法を用いて,全ての測定日の組み合わせで多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】外旋可動域は2日目133±9度,3日目124±11度,4日目132±8度,5日目126±8度,6日目123±7度であり,内旋可動域は2日目46±8度,3日目44±9度,4日目41±7度,5日目51±10度,6日目47±7度であった。外旋可動域では2日目と3日目,2日目と6日目,3日目と4日目,4日目と6日目との間に有意差を認めた。内旋可動域では,4日目と5日目に有意差を認めた。</p><p></p><p>【結論】野球の現場において投手の肩関節外旋・内旋可動域は決して一定ではなく,日々変化していることが明らかとなった。特に内旋可動域制限は投球障害の主要因と考えられており,可動域の確保が投球障害予防には重要となる。今回の結果では2日目から経時的に内旋可動域が減少する傾向にあったが,4日目の休養により5日目には有意に回復していた。これは障害予防にとって重要な知見になると考える。一方,外旋可動域は日々変動を認め,4日目の休養の影響もみられなかった。肩外旋可動域は疲労以外の要因の影響も受けやすいと推察される。外旋可動域は障害のみならずパフォーマンスにも影響を与えるため,変動の要因をさらに検討する必要がある。</p>