著者
辻 英明 水野 隆夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.185-194, 1973
被引用文献数
4 8

本邦中部で越冬する能力を調べるために, 27℃または20℃で飼育したチャバネ, ワモン, クロ, ヤマトの4種のゴキブリを, 冬の平均気温に類似させた5.5℃条件下で長期間冷蔵する実験を行なった。またあらかじめ15℃に保ちその後5.5℃に移すことも試みた。チャバネゴキブリとワモンゴキブリの卵鞘は20日間の冷蔵で死亡し, 40日の15℃予備飼育さえも有害であった。幼虫や成虫では15℃予備飼育は冷蔵に対する耐性を高めた。しかし最も耐性のある終令幼虫と成虫に予備飼育期間28日を与えても30日間の冷蔵で死亡し, 予備飼育100日間でも40日間の冷蔵に耐えられなかった。また20℃で増殖を阻止されているチャバネゴキブリ成虫および発育の遅延しているワモンゴキブリの終令幼虫は, 共に40日間の冷蔵によって死亡した。したがって, これらの種が本邦中部の戸外や無加温の建物の中で3カ月にわたる冬を越えることはきわめて困難と思われる。クロゴキブリでは, 一定期間の予備飼育がすべてのステージの冷蔵に対する耐性を高めた。すなわち, 予備飼育28日間でかなりの老令幼虫が90日間の冷蔵に耐え, 約半数の卵鞘が予備飼育40日間で冷蔵80日間に耐えた。しかし成虫と若令幼虫は60日以下しか耐えられなかった。同様にヤマトゴキブリでは, 予備飼育28日間ですべての令期のほとんどすべての幼虫が120日間の冷蔵に耐え, 成虫でも90日の冷蔵に耐えた。卵鞘は予備飼育40日間のあとでも冷蔵40日で死亡した。この種では老令幼虫と成虫は予備飼育なしでも90日間の冷蔵に耐えた。ゴキブリのひそむ場所の冬の最高最低温度は平均温度とそれほどかけはなれたものとは考えられないので, これらの結果はクロゴキブリとヤマトゴキブリが本邦中部の戸外および無加温の建物の中で越冬できることを示しているといえよう。ヤマトゴキブリの2令と終令にみられる特異的な発育遅延は冷蔵によって消去され, 休眠の特性を示した。クロゴキブリの2令でも20℃で休眠様の発育遅延があるが, その幼虫を直接冷蔵した場合60日間で全部死亡した。しかし予備飼育を経過させた場合については未調査である。
著者
辻 英明 水野 隆夫
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.185-194, 1973 (Released:2016-09-05)
被引用文献数
7 8

本邦中部で越冬する能力を調べるために, 27℃または20℃で飼育したチャバネ, ワモン, クロ, ヤマトの4種のゴキブリを, 冬の平均気温に類似させた5.5℃条件下で長期間冷蔵する実験を行なった。またあらかじめ15℃に保ちその後5.5℃に移すことも試みた。チャバネゴキブリとワモンゴキブリの卵鞘は20日間の冷蔵で死亡し, 40日の15℃予備飼育さえも有害であった。幼虫や成虫では15℃予備飼育は冷蔵に対する耐性を高めた。しかし最も耐性のある終令幼虫と成虫に予備飼育期間28日を与えても30日間の冷蔵で死亡し, 予備飼育100日間でも40日間の冷蔵に耐えられなかった。また20℃で増殖を阻止されているチャバネゴキブリ成虫および発育の遅延しているワモンゴキブリの終令幼虫は, 共に40日間の冷蔵によって死亡した。したがって, これらの種が本邦中部の戸外や無加温の建物の中で3カ月にわたる冬を越えることはきわめて困難と思われる。クロゴキブリでは, 一定期間の予備飼育がすべてのステージの冷蔵に対する耐性を高めた。すなわち, 予備飼育28日間でかなりの老令幼虫が90日間の冷蔵に耐え, 約半数の卵鞘が予備飼育40日間で冷蔵80日間に耐えた。しかし成虫と若令幼虫は60日以下しか耐えられなかった。同様にヤマトゴキブリでは, 予備飼育28日間ですべての令期のほとんどすべての幼虫が120日間の冷蔵に耐え, 成虫でも90日の冷蔵に耐えた。卵鞘は予備飼育40日間のあとでも冷蔵40日で死亡した。この種では老令幼虫と成虫は予備飼育なしでも90日間の冷蔵に耐えた。ゴキブリのひそむ場所の冬の最高最低温度は平均温度とそれほどかけはなれたものとは考えられないので, これらの結果はクロゴキブリとヤマトゴキブリが本邦中部の戸外および無加温の建物の中で越冬できることを示しているといえよう。ヤマトゴキブリの2令と終令にみられる特異的な発育遅延は冷蔵によって消去され, 休眠の特性を示した。クロゴキブリの2令でも20℃で休眠様の発育遅延があるが, その幼虫を直接冷蔵した場合60日間で全部死亡した。しかし予備飼育を経過させた場合については未調査である。
著者
辻 英明 水野 隆夫
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.101-111, 1972-10-15 (Released:2016-09-05)
被引用文献数
7 7

チャバネ, ワモン, クロ, ヤマトの4種のゴキブリが本邦中部の加温されない環境で生活した場合, どのステージで冬を迎えるかを推定するため, 夏および秋を想定した27±1℃1日16時間照明(27℃-L), 20±1℃1日8時間照明(20℃-S), 15±1℃1日8時間照明(15℃-S)の実験条件下で飼育を行なった。結果は次の通りである。1) 27℃-Lでの結果 : 幼虫の令数, 幼虫期間, 卵(鞘)期間はそれぞれチャバネで6令40∿46日, 20日, ワモンで9令105∿161日, 39日, クロで8令84∿112日, 41日であった。ヤマトでは9令あり, 91∿140日で羽化する個体以外に, 終令(9令)で150日以上発育を停止する幼虫が約半数あった。ヤマトの卵鞘は約27日でふ化した。いずれの種も卵鞘の産出は正常であった。2)20℃-Sでの幼虫発育 : チャバネは200∿250日で羽化し, 各令平均して延長した。ワモンでは161日で大部分が6令に達したが, 500∿600日でも羽化できない個体が多く, 終令の遅延が極端とみられた。クロでは2令の延長が特別に著しく80日に及んだ。その延長を含め400∿480日の間に大部分が羽化した。ヤマトでは2令の延長が一層極端で140日以上に及んだ。一方越冬中採集された若令幼虫(2令)は300∿500日で成虫となった。3)20℃-Sでの産卵 : 20℃-Sで羽化したチャバネとワモンは卵鞘を産出せず, クロはわずかの異常卵鞘を産下したにとどまった。一方ヤマトは正常に産卵した。27℃-Lで産卵中の成虫を20℃-Sに移すと, チャバネは正常卵を産まなかったが, ワモンとクロは若干の正常卵を産んだ。4)20℃-Sでの卵のふ化 : チャバネでは, 27℃-Lで卵鞘を形成して24時間以内の成虫を20℃-Sで飼育しても幼虫が生じなかった。27℃-Lまたは20℃-Sで産まれた他種の卵鞘では, ワモンで約100日, クロで約120日, ヤマトで約64日でふ化がみられた。5)15℃-Sでの結果 : どの種類の幼虫も15℃-Sで100日以内には次の令以上に発育することは困難とみられた。27℃-Lでの産卵中の成虫を15℃-Sに移すと, ヤマトはさらに若干の卵鞘を産下したが, 他の種ではいずれも産卵が阻止された。またどの種の卵鞘もこの条件下に保つとふ化せず死亡した。6)以上の結果からPeriplaneta 3種の当年のふ化幼虫は年内に成虫にならず, 特に秋にふ化したクロとヤマトの幼虫は2令で冬を迎えると思われる。またこのような若令で越冬した場合Periplaneta 3種は次の年にも成虫にならない可能性がある。特にヤマトは夏期でも終令で発育を停止し, もう一度越冬する可能性が大きい。この場合, 1世代2年を要する"two-year life cycle"がむしろ正常であることが暗示される。一方, 長い成虫期間, 産卵期間, 卵鞘期間, 幼虫期間から考えて, Periplaneta 3種がすべてのステージで冬を迎えることは十分あり得ることと思われる。チャバネでは卵鞘の形成とふ化が20℃-Sでも妨げられるので, 卵や幼令幼虫で冬を迎える可能性は少ない。各ステージが冬の平均気温下で生存できるかどうかについての実験結果は別途に報告したい。
著者
辻 英明 水野 隆夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.101-111, 1972
被引用文献数
7

チャバネ, ワモン, クロ, ヤマトの4種のゴキブリが本邦中部の加温されない環境で生活した場合, どのステージで冬を迎えるかを推定するため, 夏および秋を想定した27±1℃1日16時間照明(27℃-L), 20±1℃1日8時間照明(20℃-S), 15±1℃1日8時間照明(15℃-S)の実験条件下で飼育を行なった。結果は次の通りである。1) 27℃-Lでの結果 : 幼虫の令数, 幼虫期間, 卵(鞘)期間はそれぞれチャバネで6令40∿46日, 20日, ワモンで9令105∿161日, 39日, クロで8令84∿112日, 41日であった。ヤマトでは9令あり, 91∿140日で羽化する個体以外に, 終令(9令)で150日以上発育を停止する幼虫が約半数あった。ヤマトの卵鞘は約27日でふ化した。いずれの種も卵鞘の産出は正常であった。2)20℃-Sでの幼虫発育 : チャバネは200∿250日で羽化し, 各令平均して延長した。ワモンでは161日で大部分が6令に達したが, 500∿600日でも羽化できない個体が多く, 終令の遅延が極端とみられた。クロでは2令の延長が特別に著しく80日に及んだ。その延長を含め400∿480日の間に大部分が羽化した。ヤマトでは2令の延長が一層極端で140日以上に及んだ。一方越冬中採集された若令幼虫(2令)は300∿500日で成虫となった。3)20℃-Sでの産卵 : 20℃-Sで羽化したチャバネとワモンは卵鞘を産出せず, クロはわずかの異常卵鞘を産下したにとどまった。一方ヤマトは正常に産卵した。27℃-Lで産卵中の成虫を20℃-Sに移すと, チャバネは正常卵を産まなかったが, ワモンとクロは若干の正常卵を産んだ。4)20℃-Sでの卵のふ化 : チャバネでは, 27℃-Lで卵鞘を形成して24時間以内の成虫を20℃-Sで飼育しても幼虫が生じなかった。27℃-Lまたは20℃-Sで産まれた他種の卵鞘では, ワモンで約100日, クロで約120日, ヤマトで約64日でふ化がみられた。5)15℃-Sでの結果 : どの種類の幼虫も15℃-Sで100日以内には次の令以上に発育することは困難とみられた。27℃-Lでの産卵中の成虫を15℃-Sに移すと, ヤマトはさらに若干の卵鞘を産下したが, 他の種ではいずれも産卵が阻止された。またどの種の卵鞘もこの条件下に保つとふ化せず死亡した。6)以上の結果からPeriplaneta 3種の当年のふ化幼虫は年内に成虫にならず, 特に秋にふ化したクロとヤマトの幼虫は2令で冬を迎えると思われる。またこのような若令で越冬した場合Periplaneta 3種は次の年にも成虫にならない可能性がある。特にヤマトは夏期でも終令で発育を停止し, もう一度越冬する可能性が大きい。この場合, 1世代2年を要する"two-year life cycle"がむしろ正常であることが暗示される。一方, 長い成虫期間, 産卵期間, 卵鞘期間, 幼虫期間から考えて, Periplaneta 3種がすべてのステージで冬を迎えることは十分あり得ることと思われる。チャバネでは卵鞘の形成とふ化が20℃-Sでも妨げられるので, 卵や幼令幼虫で冬を迎える可能性は少ない。各ステージが冬の平均気温下で生存できるかどうかについての実験結果は別途に報告したい。