著者
水野谷 祥子 (澤野 祥子)
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

遅筋と速筋に発現する脂質代謝関連遺伝子を網羅的に解析し、その発現量の比較を行った。遅筋モデルとしてsoleus、速筋モデルとしてEDLを用い、各々の筋組織からRNAを抽出・処理した後、次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析に供した。得られたデータセットの品質評価・マッピング・発現量の正規化を行い、遅筋(soleus)と速筋(EDL)に発現する遺伝子の差異について検討した。遅筋と速筋それぞれに発現する全ての遺伝子を比較した結果、558個の遺伝子について有意な発現量の差異が認められた。そのうち遅筋における発現が多い遺伝子は230個であり、遅筋タイプの筋線維マーカーであるMyHC1をはじめ、β酸化・TCA回路関連遺伝子を中心に有意に発現量が高かった。速筋における発現が多い遺伝子は228個であり、糖代謝に関わる遺伝子発現量が有意に高いことが分かった。遅筋に多く発現する脂質代謝遺伝子について詳細に解析した結果、脂質酸化系に関連する遺伝子だけでなく、脂肪酸取込に関わるCD36 (fatty acid translocase)および、トリグリセリド合成に関わる遺伝子についても有意に多く発現していた。これらの脂質合成系の遺伝子発現量の増加はreal time RT-PCRにおいても認められた。したがって、当初の推測通り、遅筋においては、酸化によるエネルギー燃焼を行いつつ合成系の働きも亢進しエネルギー枯渇を防いでいることが示唆された。