著者
地井 昭夫 永原 朗子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.599-610, 1996

以上の結果から, 金沢市における高齢者のいる家族の住生活の安定性について, 次のことが指摘できる.<BR>(1) 調査対象期間における住生活の安定性の変化について見ると, 結婚, 未婚, 転勤, 夫婦の高齢化, 就職, 離婚, 転居, 家族関係の不和, 就職・結婚, 子供なしや富山市で見られなかった配偶者の転勤, 高齢者の夫死亡, 子供の死亡, 養子縁組, 転勤・結婚等を契機とする居住地選択によって, 富山市と同様, 安定型, 準安定型, 準不安定型, 不安定型等の多様な住生活タイプを形成しており, 子供の結婚, 就職による他出が大きな転機となっている.<BR>(2) 将来も同居を継続, もしくはその可能性のある安定型の居住関係をとる家族は73家族 (64.6%) であるが, 残りの40家族 (35.4%) は子どもと離れて暮らす不安定型等 (準安定型, 準不安定型, 不安定型) の居住関係を形成しており, 富山市と同様, 安定型以外の居住関係をとる家族が約4割いる.<BR>(3) 今回のサンプル数からは断定出来ないが, 娘と近居にある家族は, 富山市は19家族 (17.1%) であったが金沢市は8家族 (7.1%) しかなく, 両市の家族関係意識の差異を表すものと考えられる.また, 借家, 公営, 社宅等に住む家族は, 富山市で安定型が1家族 (1.7%), 安定型以外が8家族 (15.4%) であったが, 金沢市は安定型が2家族 (2.9%), 安定型以外が1家族 (6.7%) であり, 富山市の場合ほど, 住生活の安定性と住宅事情の問の相関関係は顕著ではないと思われる.<BR>(4) 高齢者の就業は, 無職から有職に変化した人は1人いたが, 有職から無職に変化した48人を含めて現在, 85人 (75.2%) が無職である.しかし, 85人のうち5人は子供のいない高齢者であるため80人が子供から何らかの援助 (含・精神的) を受けていると思われる.なお, 将来において, 同居継続もしくは同居に変化する可能性のある73人は, 子供からの援助がより緊密になると思われる.<BR>以上見てきたことから, 金沢市における高齢者の住生活は, 現在および将来にわたって, 大局的には富山市と似た傾向を示しており, 特に, 将来, 安定型以外の居住関係をとる家族が, 両市共に約4割いることは注目される.<BR>したがって, 今後, 子供の数の減少や扶養意識の変容から, これらの家族に対する支援は不可欠となってくる.<BR>家族, 地域, 行政によるきめ細かな高齢者福祉対策や住宅対策が求められる.<BR>次報では, 一連の調査結果から富山市と金沢市の住生活を総括的に比較すると共に, 住生活の安定性から見た今後の課題を整理するため, 本調査と行政および民間の取組み状況や今後の取組みについて検討し, 第2報で報告した住生活の安定性のタイプと高齢者の心身の自立度レベルのクロスによる家族・地域ケア, 医療・福祉施策および求められる住宅タイプや施策に関する整理と提案を行いたい.