著者
永松 裕幹
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.633, pp.633_127-633_147, 2016-06-30 (Released:2017-05-13)
参考文献数
19

危険ドラッグの氾濫や向精神薬の乱用が社会問題になっている。これらの薬物を服用した状態で車の運転をした場合には,事故発生の危険性が高く,社会的非難も大きい。自動車保険約款の人身傷害条項や車両条項中の薬物免責条項には,これらの薬物は明記されていないが,被保険者がこれらの薬物を服用した状態で運転して事故が発生した場合,保険者は免責とすることができるのであろうか。約款文言や道路交通法の規定との平仄から,これらの薬物を服用した状態で運転したときに発生した事故につき,同条項は適用できないと考える。もっとも,危険ドラッグのうち,所持や使用が違法である指定薬物については,約款を改訂することで,免責の対象とすることができる。このように解しても,被保険者が危険ドラッグや向精神薬を服用した状態で運転して事故が発生した場合には,別途重過失免責の規定を適用する余地がある。この点,危険ドラッグについては,重過失免責が比較的容易に認められる可能性が高い一方,向精神薬については,重過失免責が認められる場合は,相当程度限定される可能性がある。
著者
永松 裕幹
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.626, pp.626_107-626_126, 2014-09-30 (Released:2015-08-13)
参考文献数
17

告知義務違反における重要な事実の不告知についての故意又は重過失の認定に際しては,故意又は重過失の意義をどのように解し,いかなる要素が評価根拠事実又は評価障害事実となるかが問題となることから,裁判例を類型的に分析し,故意又は重過失を導く要素につき検討することが本論文の目的である。重過失の意義について明示した裁判例は少ないが,保険法の制定過程に鑑みれば,重過失を「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如の状態」と解することになりそうである。裁判例における重過失の認定に際しては,被保険者の現症・既往症の重大性及び自覚症状,医師からの説明及び健康診断の結果通知の内容並びに医師の診察・治療・投薬等及び健康診断の結果通知等の時点から告知時までの時間的近接性が基本的な要素となっている。また,保険者は,告知義務制度の意義や告知事項の重要性を告知義務者に十分に説明し,質問内容が分かりやすいものとなっているかに配慮すべきである。