著者
永浜 明子
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

【目的】本研究の目的は,大学で体育実技に参加する障がいのある学生の状況を把握することであった.また,学生本人及び体育実技担当教員からの聞き取りにより,大学及び義務教育課程における障がいのある児童生徒の体育のあり方を検討することも目的とした.【対象と方法】対象は、滋賀県内の大学で障がいのある学生が参加する体育実技の学生(1クラス),障がいのある学生本人,体育実技を担当する教員3人であった.対象者には,研究の目的を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした.対面式インタビュー,自由記述及びグループディスカッションを行った.障がいのある学生本人には,これまでの体育への参加方法,大学での体育実技参加に対する思いや不安,参加した感想を聞き取り,障がいのない学生には,障がいのあるクラスメイトと共に体育実技を行った意見・感想を自由記述及びディスカッションで表現してもらった.体育実技担当教員には身体的あるいは知的な障がいのある学生を担当した経験,障がいのある学生を担当した時の気持ちや困った点,障がいのある学生と障がいのない学生がともに「体育実技」に参加することのメリット・デメリットなどを述べてもらった.分析は質的記述的分析手法を用い,障がいのある学生及びクラスメイトの体育実技に対する思い,参加への阻害要因などをまとめた.調査期間は,平成19年4月〜平成19年9月であった.【結果と考察】障がいのある学生は,これまで体育実技に参加したことはなく,ほとんどが別室学習を行っていた.自身が体育実技に参加できる(その能力や機会がある)ことへの驚きが多く語られた.反面,他者に対する心配や不安(迷惑をかける)も述べられた.一方,クラスメイトの多くからは戸惑いが語られた.力加減や怪我をさせるのではないかという心配が戸惑いの一番の原因であった.しかし,障がいのあるクラスメイトが楽しんでいる姿を見て,一緒にしたい,一緒にできることを探したいというように変化したとの意見も多く見られた.実技を担当する教員からもやはり怪我に対する戸惑いが語られた.また,障がいのある学生を障がいのない学生が共に実技させたいと思う反面,障がいのない学生の運動量が減ってしまうことに対するジレンマも語られた.これらの心配や不安は,障がいに関する情報や障がい児者と接した(特に体育)経験の少なから生じると考えられる.学生・教員共に障がいのある学生とない学生が共に体育実技を行うことの意義は十分に感じており,幼少期から全児童生徒が共に体育実技を行うことが児童生徒のみならず,教員の授業展開に役立つことが示唆された.