著者
永野 泉
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.79-88, 2006-02-25

「環境」という言葉は本来生物学の分野で使用され「生活体を取り囲む外界であり主体の生存と行動に関係があるもの」をいう。現在は生物学の分野以外に心理学、医学、物理学、化学、社会科学など多くの分野でも使われている。教育学、保育学の分野では現在でも近代教育の思想家であるルソー、フレーベル、デューイ、モンテッソーリ等が述べている環境論を引用して、教育における環境の重要性を説明しておりこれらの思想が受け継がれている。また昭和23年に公布された学校教育法第77条でも「幼稚園の目的」は「適当な環境を与えて、その心身の発達を助長する」と示され、さらに平成元年の「幼稚園教育要領」の改定では「幼稚園教育は、幼児の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする」と「環境」を通しての教育を行うことが明記された。保育において「適当な環境」としての具体的な環境構成を行う場合の考え方としては大きく二つに分けることができた。すなわち「ねらいを達成するための環境構成」と「自発的活動を確保するための環境構成」である。実際にどちらの環境構成を行うかについては現場の保育者に委ねられているわけであるが、幼児の特性や教育的視点から考えた場合「自発的活動を確保するための環境構成」を選択すべきであろう。しかしこの場合子どもが自発的に活動できる環境を保育者が準備するためには幼児の発達段階はもとより、その時々の興味や関心を把握し、子どものつぎの活動を予測する必要がある。これは保育者があらかじめねらいを決め環境を設定してそれに導く保育と比較した場合よりも、より高度な観察力、洞察力、経験などが要求されよう。この点からも環境構成を問題とすることは、すなわち保育者の資質や能力とも大きくかかわってくる問題といえる。