著者
水野谷 憲郎
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.153-165, 2014-02-25

興福寺阿修羅像はその特異な姿と少年らしい顔によって多くの人から愛される仏像である。だがこの像については不明な点も多い。筆者はこれまで、仏像が置かれる場所によってその形や傾きを変える事実を「迎角」として追究してきた。本研究では、阿修羅像の「迎角」を追究することにより、阿修羅像の置かれた場所を想定することである。その結果阿修羅像は向かって左奥、拝観者に斜め左側を見せて立つ位置にあったと想定した。この位置は興福寺曼荼羅に描かれた阿修羅の立ち位置に極めて近いと結論した。
著者
名和 清隆
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.137-152, 2014-02-25

1985年に生じた日航機事故の現場である「御巣鷹の尾根」のある群馬県上野村において、事故の記憶がどのように継承されているか、事故被害者という「他人の死」をどのように捉え意味付けているのかについて考察する。主に上野小学校、上野中学校の教員に対する聞取り調査、上野中学校生徒に対してのアンケート調査をもとに、学校教育のなかでどのように伝えられているか、子どもたちは事故をどのように受け止めているのかを明らかにしていく。上野村出身の中学生の多くは、家庭において事故に関する話を聞いた経験を持つ。しかし、家族と一緒に御巣鷹の尾根への慰霊登山や慰霊の園への参拝の経験を持つ生徒は少なく、慰霊登山、慰霊の園への参拝などを通じた「体験」での理解は、主に小学校、中学校での教育の一環として行われてきた。実際に何らかの形で事故を体験した家族や親戚から家庭内において話を聞く「家庭内での継承」と、行事として「体験」することにより昔の出来事をリアルなものとして感じる「学校での継承」は相互補完的に行われている状況であるといえる。また、事故から約30年が経過した現在、伝える側も受け取る側も事故被害者という「他人の死」の意味が、「直接体験した他人の死」から「直接体験していない他人の死」とへと変化しており、死者への生々しい感情よりもむしろ、事故や死者を介した「教訓」という側面が強調されて「他人の死」が伝えられ、また受け入れられていると言えよう。
著者
打浪 文子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳大学短期大学部研究紀要 = Shukutoku University Junior College bulletin (ISSN:21887438)
巻号頁・発行日
no.54, pp.105-120, 2015

本稿では、軽度から中度の知的障害者16名に対して、通信機能を持つ情報機器(PC及び携帯電話)の利用状況及びその具体的様相を把握し課題を析出するために、半構造化面接法による聞き取り調査を実施した。調査結果から、知的障害者のPC利用は自由に利用できる少数と利用環境の整わない多数に二分されることを明らかにした。また携帯電話は対象者全員に利用経験があり、情報伝達や支援代替的なツールとして活用されていること、通話以外の固有機能も幅広く利用されていることを明らかにした。健常者社会との情報格差を減らし彼らの社会参加を促進するために、技能習得の機会の拡大、知的障害者が「利用しやすい」ことに着目した情報機器の活用方法の検討、公的な知的障害者向けの情報支援施策の展開、当事者・家族・支援者への意識啓発が今後の社会的課題である。
著者
田村 惠一
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.19-31, 2007-02-25

今日、高齢化社会の到来とともに、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の問題がクローズアップされてきているが、特に、在宅介護に於ける様々な問題の中でも、とりわけ、ストレスが強く集中する介護者への、身体面、精神面のフォローの問題は多く取り上げられるようになってきた。一方、自分自身が障害を持ちながらも高齢化した親族を介護している、いわゆる「障老介護」の事例も多く見られるようになったが、まだまだ顕在化していない。今回、高齢化した親を、障害者自身が介護している事例を面接調査し、障害者の生活状況と日々の介護生活の実情を把握・検証する中で、そこに内在する問題点や課題を模索した。この結果、「障老介護」も「老老介護」も共通して社会福祉各法による福祉サービス対象者"別"の制度ではなく、家族員総体を包括し援助できる法体制の整備と、制度を繋ぎ合わせマネージメント出来る資質を持った専門職の創設・養成が急務であるということが分かった。
著者
馬場 結子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.61-75, 2012-02-25

本稿は、ルドルフ・シュタイナーにおける子どもの音楽教育について、幼児の音楽教育を中心に考察するものである。シュタイナーは子どもの音楽的素養を見い出し、「音楽家としての子ども」という考えを表明した。子どもの身体においてはリズム機構が優勢であり、それは3歳から4歳の子どもが踊りを好むという傾向に示されている。また、この時期の子どもの心においては意志の作用が強く働くが、これはリズミカルな音を繰り返し聴くことによって育てられていくものである。シュタイナー幼稚園では、こうした点を考慮して幼児の音楽教育が行われている。幼児期の子どもの音楽教育の特徴は、子どもの本質を考慮して、音楽芸術よりも子どもを主体にしながら音楽教育を構成していくところにあるといえるだろう。ペンタトニック・スケールの楽曲や幼児オイリュトミーを推奨しているのはその表れであると考えられる。
著者
亀山 幸吉 田村 惠一 萩原 英敏
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.31-65, 2010-02-25

保育・介護など、福祉労働の現状を知る為、本学卒業生5,000名へ、労働状況に関するアンケート(回収率14.4%)を行なった結果、以下の様な事が明らかになった。1.税込み年収の平均は256万円(勤務平均5年)であり、日本の他の職業の平均に達した者は、5%しかいない低賃金であった。特に民間経営の保育所に低い所が多かった。2.労働条件の満足度の低い主な勤務先は、保育所(私立)や、老人福祉施設など、就業者の多いところであった。また職務でも、保育士(クラス担任)、介護福祉士(一般職)に、満足度の低い者が多かった。3.休憩時間は、ほとんどの保育所は十分取れていない。また拘束時間も8時間を守られているのは認可保育所(公立)のみである。4.時間外労働の長いのは、乳幼児を対象とした入所施設である。5.勤務形態別に見ると、非正規雇用の方が、正規雇用に比べて、労働条件が悪い。6.労働環境に問題を感じた時の活動は、職場などへの働きかけが、全体的に多いが、広範な社会的活動への意識も少しずつ芽生えている。7.回収率から、マスコミへの影響などからか保育士の方が、介護福祉士より、労働条件などの問題への意識が弱い。
著者
堀口 美智子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.83-93, 2010-02-25

就学前の子どもをもつ親は、子どもの成長や発達が順調であるかを心配したり、子育てのしかたに悩んだりすることが少なくない。孤立して育児をする現代の親の状況を考えると、子育て支援とは、「子育ての方法を知りたい」という新米の親から「子どもの問題にどのように対処したらよいのか」悩む親までを、広い範囲で対象にする必要がある。また、親たちが抱える問題に対症療法的に関わるだけではなく、問題を未然に防ぐための予防的支援が重要となる。そこで、5段階の介入・支援プログラムをもち、親のニーズや問題の内容にあわせて複数のプログラムを重層的に展開するオーストラリアの「トリプルP-前向き子育てプログラム」に注目した。本稿では、「前向き子育てプログラム」の理論枠組みや先行研究などを紹介し、大学における地域子育て支援の試みとして、筆者が2009年度に行った活動を報告した。
著者
馬場 結子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.69-82, 2011-02-25

本稿は、ルドルフ・シュタイナーの幼児教育について考察するものである。シュタイナーは、子どもの発達を基盤にしながら幼児期の子どもの特質を明らかにした。そこから、彼は幼児教育の内容や方法を考察したのである。このなかで、シュタイナーは、大人と子どもの関わりについて「模倣と模範」の論理を示しながら、幼児期の子どもが模倣によって学ぶこと、そのため大人(保育者)には模範的な態度が求められることを明らかにした。さらに、彼は、幼児の遊びには知的な要素ではなく、美的要素を重視して子どもの想像力を育むことを説いた。シュタイナー幼稚園ではこうしたことが実践されている。シュタイナーの幼児教育では、子どもの成長に合わせながら教育がおこなわれるのであり、子どもの立場を考慮した教育がおこなわれているといえるのである。
著者
三田寺 裕治
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-14, 2013-02-25

インシデントデータの収集・分析は事故の原因や再発防止策を検討する上で有効な手段の一つであることが指摘されている。医療分野では、インシデントレポートの電子化が進み、インシデントデータの収集・分析・共有を可能とするレポーティングシステムの開発が行われている。一方、介護分野においては、標準化された報告様式が整備されていないだけでなく、インシデントレポートの電子化が遅れており、紙媒体によってインシデントデータを収集している施設も多く散見される。本研究では、インシデント情報のコード化を行うとともに、インシデントデータを効率的に収集するためのwebブラウザ型のイシデントレポートシステムを開発した。また、開発したインシデントレポートシステムを用いて試行的にインシデントデータを収集し、介護保険施設におけるインシデントの発生状況及びインシデントに関連するリスク要因について検討した。
著者
長谷部 比呂美 池田 裕恵 日比 曉美 大西 頼子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.31-48, 2015-02-25

近年の初等教育界の大きな問題として「小1プロブレム」が取り上げられている。新入学児に対して経験豊かな教師でさえ指導に窮している現象であり、こうした問題への対処として幼保小連携、環境移行、交流などの幼保小接続や、基本的生活習慣、ソーシャル・スキルの形成等で移行をスムーズにするという視点から、現在多くの方策が模索されている。しかし、その背後には単に小学校という場への慣れという問題では解決できない別の複数の要因が関わっていることが考えられる。近年の社会の急激な変化に伴い必然的に子どもを取り巻く環境自体も大きく変化し、子どもの育ちに直接的影響を及ぼしている。従って滑らかな移行といった対症療法では背後に潜む問題自体を解決することはできないであろうし、また環境移行以外の問題に対処することも困難であろう。本研究では、現在の日本社会で生じている子どもたちの問題を幼児期に遡って原因を探り、解決のためには幼児期に何が必要であるのかを解明する。首都圏の保育士および幼稚園教諭を対象に、近年の幼児や保護者に見られるようになった現象について質問紙調査を行い、今回はその第一報として最近の幼児の特徴と傾向を探った。その結果、「目的的調整力の低位」、「内発的活力の低位」、「行動・防衛体力の低位」、「生命維持力の低位」の4因子が抽出され、すでに幼児期において、多くの子どもに生来備わっているはずの健やかな育ちを求める機能が十分に育まれず心身共に脆弱性を抱えている傾向が明らかになった。
著者
浅木 尚実
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.37-49, 2016-02-25

OECDの提言により、国際的に幼児教育の質的向上が注目を浴びている。我が国でも「子ども・子育て関連三法」が施行され(2015年4月)、今後益々子育てを含む幼児教育の質的向上が求められる時代に入った。幼児期の「遊び」は、「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」でも保育内容の中心的課題となっている。本論では、北欧スウェーデンの幼児教育を取り上げ、幼児教育・保育における「遊び」と質的向上との関連を考察した。
著者
水野谷 憲郎
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.81-94, 2013-02-25

前紀要にて、東大寺南大門仁王像の迎角は確かに存在し、その迎角を想定して当初より造像されていると述べた。しかし、それは実証的根拠に乏しいものであった。この度美術院より「東大寺南大門金剛力士像修理報告資料写真」をお借りすることができた。それらの資料写真が見せる東大寺南大門仁王像の各部位が有する傾斜角を調べた結果、迎角があると結論するとともに前紀要で想定した傾斜角度はさらに急激であり、仁王像は当初より東西に向かいあう立ち位置にあったと判断した。
著者
永野 泉
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.79-88, 2006-02-25

「環境」という言葉は本来生物学の分野で使用され「生活体を取り囲む外界であり主体の生存と行動に関係があるもの」をいう。現在は生物学の分野以外に心理学、医学、物理学、化学、社会科学など多くの分野でも使われている。教育学、保育学の分野では現在でも近代教育の思想家であるルソー、フレーベル、デューイ、モンテッソーリ等が述べている環境論を引用して、教育における環境の重要性を説明しておりこれらの思想が受け継がれている。また昭和23年に公布された学校教育法第77条でも「幼稚園の目的」は「適当な環境を与えて、その心身の発達を助長する」と示され、さらに平成元年の「幼稚園教育要領」の改定では「幼稚園教育は、幼児の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする」と「環境」を通しての教育を行うことが明記された。保育において「適当な環境」としての具体的な環境構成を行う場合の考え方としては大きく二つに分けることができた。すなわち「ねらいを達成するための環境構成」と「自発的活動を確保するための環境構成」である。実際にどちらの環境構成を行うかについては現場の保育者に委ねられているわけであるが、幼児の特性や教育的視点から考えた場合「自発的活動を確保するための環境構成」を選択すべきであろう。しかしこの場合子どもが自発的に活動できる環境を保育者が準備するためには幼児の発達段階はもとより、その時々の興味や関心を把握し、子どものつぎの活動を予測する必要がある。これは保育者があらかじめねらいを決め環境を設定してそれに導く保育と比較した場合よりも、より高度な観察力、洞察力、経験などが要求されよう。この点からも環境構成を問題とすることは、すなわち保育者の資質や能力とも大きくかかわってくる問題といえる。
著者
小杉 誠司
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.155-166, 2009-02-25
被引用文献数
5

測定過程に関連したHeisenbergの不確定性原理に対する小澤の批判を考察し,小澤が定義した測定値が正しくないために,小澤の理論にはいくつかの不合理な点が存在することを指摘した.本論文で明らかにした正しい測定値を用いれば,これらの問題は生じない.EPRがおこなった粒子2の位置測定の結果から粒子1の位置測定をおこなう間接測定の場合には,Heisenbergの不確定性関係を一般化した小澤の不等式は成立していない.
著者
児玉 ひろみ
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.85-93, 2004-02-25

ホウレンソウを茹でる際、加熱後の食味に影響する要因として、湯量、湯温、湯の食塩濃度、水さらし等が挙げられる。本研究では食味が異なる夏期と冬期のホウレンソウについて湯量の条件を、3、5、7、9倍に設定し、官能評価によって適切な湯量の検討を試みた。また、調理の簡便性を考慮し、湯の繰り返し使用および冷蔵保存の可否の検討も行った。湯量については、夏期では7倍以上、冬期では3倍以上で評価が高かった。湯の繰り返し使用3回までの範囲では、繰り返し使用による食味への影響はみられなかった。茹でたホウレンソウを冷蔵保存する場合、湯量9倍以上で茹でたものは、保存後のテクスチャーの評価が有意に低くなった。
著者
梅原 基雄
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-7, 2004-03-15

本稿は、Y社会福祉協議会のボランティアセンターが派遣したボランティアZが身体障害者Xの歩行介護を行っている間に起きた転倒事故について、YとZの損害賠償責任が争われた事案で、Y社会福祉協議会と原告Xとの間には準委任契約関係は存在しないと判断され、Y社会福祉協議会の債務不履行責任が否定されるとともに、ボランティアZについても本事例の場合・善管注意義務違反による責任が否定された判例について解説したものであり、ボランティア、実習に参加する場合どのような注意が必要かについても述べたものである。社会福祉学科という特質性から、ボランティア参加や実習に出る学生が多く、その動機については様々であると思われるが、直接利用者と接し介護や指導監督をすることの責任の重要性について、関連の教職員と学生には特に再認識を促したい。