著者
萩原 英敏 Hidetoshi HAGIWARA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.52, pp.43-60, 2013

3歳未満児保育から見た、Attachment理論を中心とした親子関係が、青年期前後の人格形成に、どう影響するかを、文献、資料、著者の臨床体験などから概観し、以下の様な主旨の論となった。1.長期の発達を見る縦断的研究は、一番必要とされる対象者のフォローが出来ていないなど、科学性に疑問が残る。2.精神分析学から出た、BowlbyやEriksonの発達学は、主観性の問題はあるが、現象を見ていると、的を得えている。3.Bowlbyの理論は、AAIやSSPの方法により青年期前後の親子関係を見れるようになった。4.Attachment理論での親子関係の重要性が、3歳未満児保育の実施に、大きな問題を投げかけている。5.Eriksonのアイデンティティ理論を、個から関係性のものに、とらえ直す事によって、アタッチメント理論との連携が可能になった。6.3歳未満児保育により、特定な人(主に親)のAttachmentの恒常性の獲得が危惧され、青年期前後に、孤独・無力感を呈するのではないかと思われた。7.現場の保育所からも、Attachment不足現象が報告され、3歳未満児保育の問題点が浮かび上った。
著者
長谷川 美貴子 Mikiko HASEGAWA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.47, pp.117-134, 2008

最近、「感情を管理する労働」に対する関心が高まり、さまざまな議論がなされている。「感情労働」とは、サービス提供者側の感情を商品としてみなし、職務上望ましいと考えられる感情や精神状態に顧客が変化することを意図して、自分の感情を促進したり、抑制して感情表現の仕方をコントロールすることが、職務の中で課せられている労働のことを指す。わが国においては熟練看護師に関する研究が盛んに行われているが、同じ対人援助職である介護織に関する議論はほとんどなされていない。しかし、介護援助は「ケア」に特化した援助行為であることから、感情労働としての側面を有していることが考えられる。今回、介護学生の実習レポート『私の介護観』や実習中の直接面接方式による準構造的な聞き取り調査の内容分析から、「他者を援助する」という基本的な行為の中に組み込まれている感情管理の困難性が明らかとなった。
著者
水野谷 憲郎
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.153-165, 2014-02-25

興福寺阿修羅像はその特異な姿と少年らしい顔によって多くの人から愛される仏像である。だがこの像については不明な点も多い。筆者はこれまで、仏像が置かれる場所によってその形や傾きを変える事実を「迎角」として追究してきた。本研究では、阿修羅像の「迎角」を追究することにより、阿修羅像の置かれた場所を想定することである。その結果阿修羅像は向かって左奥、拝観者に斜め左側を見せて立つ位置にあったと想定した。この位置は興福寺曼荼羅に描かれた阿修羅の立ち位置に極めて近いと結論した。
著者
名和 清隆
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.137-152, 2014-02-25

1985年に生じた日航機事故の現場である「御巣鷹の尾根」のある群馬県上野村において、事故の記憶がどのように継承されているか、事故被害者という「他人の死」をどのように捉え意味付けているのかについて考察する。主に上野小学校、上野中学校の教員に対する聞取り調査、上野中学校生徒に対してのアンケート調査をもとに、学校教育のなかでどのように伝えられているか、子どもたちは事故をどのように受け止めているのかを明らかにしていく。上野村出身の中学生の多くは、家庭において事故に関する話を聞いた経験を持つ。しかし、家族と一緒に御巣鷹の尾根への慰霊登山や慰霊の園への参拝の経験を持つ生徒は少なく、慰霊登山、慰霊の園への参拝などを通じた「体験」での理解は、主に小学校、中学校での教育の一環として行われてきた。実際に何らかの形で事故を体験した家族や親戚から家庭内において話を聞く「家庭内での継承」と、行事として「体験」することにより昔の出来事をリアルなものとして感じる「学校での継承」は相互補完的に行われている状況であるといえる。また、事故から約30年が経過した現在、伝える側も受け取る側も事故被害者という「他人の死」の意味が、「直接体験した他人の死」から「直接体験していない他人の死」とへと変化しており、死者への生々しい感情よりもむしろ、事故や死者を介した「教訓」という側面が強調されて「他人の死」が伝えられ、また受け入れられていると言えよう。
著者
田村 惠一
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.19-31, 2007-02-25

今日、高齢化社会の到来とともに、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の問題がクローズアップされてきているが、特に、在宅介護に於ける様々な問題の中でも、とりわけ、ストレスが強く集中する介護者への、身体面、精神面のフォローの問題は多く取り上げられるようになってきた。一方、自分自身が障害を持ちながらも高齢化した親族を介護している、いわゆる「障老介護」の事例も多く見られるようになったが、まだまだ顕在化していない。今回、高齢化した親を、障害者自身が介護している事例を面接調査し、障害者の生活状況と日々の介護生活の実情を把握・検証する中で、そこに内在する問題点や課題を模索した。この結果、「障老介護」も「老老介護」も共通して社会福祉各法による福祉サービス対象者"別"の制度ではなく、家族員総体を包括し援助できる法体制の整備と、制度を繋ぎ合わせマネージメント出来る資質を持った専門職の創設・養成が急務であるということが分かった。
著者
馬場 結子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.61-75, 2012-02-25

本稿は、ルドルフ・シュタイナーにおける子どもの音楽教育について、幼児の音楽教育を中心に考察するものである。シュタイナーは子どもの音楽的素養を見い出し、「音楽家としての子ども」という考えを表明した。子どもの身体においてはリズム機構が優勢であり、それは3歳から4歳の子どもが踊りを好むという傾向に示されている。また、この時期の子どもの心においては意志の作用が強く働くが、これはリズミカルな音を繰り返し聴くことによって育てられていくものである。シュタイナー幼稚園では、こうした点を考慮して幼児の音楽教育が行われている。幼児期の子どもの音楽教育の特徴は、子どもの本質を考慮して、音楽芸術よりも子どもを主体にしながら音楽教育を構成していくところにあるといえるだろう。ペンタトニック・スケールの楽曲や幼児オイリュトミーを推奨しているのはその表れであると考えられる。
著者
亀山 幸吉 田村 惠一 萩原 英敏
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.31-65, 2010-02-25

保育・介護など、福祉労働の現状を知る為、本学卒業生5,000名へ、労働状況に関するアンケート(回収率14.4%)を行なった結果、以下の様な事が明らかになった。1.税込み年収の平均は256万円(勤務平均5年)であり、日本の他の職業の平均に達した者は、5%しかいない低賃金であった。特に民間経営の保育所に低い所が多かった。2.労働条件の満足度の低い主な勤務先は、保育所(私立)や、老人福祉施設など、就業者の多いところであった。また職務でも、保育士(クラス担任)、介護福祉士(一般職)に、満足度の低い者が多かった。3.休憩時間は、ほとんどの保育所は十分取れていない。また拘束時間も8時間を守られているのは認可保育所(公立)のみである。4.時間外労働の長いのは、乳幼児を対象とした入所施設である。5.勤務形態別に見ると、非正規雇用の方が、正規雇用に比べて、労働条件が悪い。6.労働環境に問題を感じた時の活動は、職場などへの働きかけが、全体的に多いが、広範な社会的活動への意識も少しずつ芽生えている。7.回収率から、マスコミへの影響などからか保育士の方が、介護福祉士より、労働条件などの問題への意識が弱い。
著者
長谷川 美貴子 Mikiko HASEGAWA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.48, pp.77-91, 2009

「ケア」とは相手を思いやり配慮する行為と一般的に捉えられており、そのためには相手に対して「共感」することが求められている。しかし、共感とは具体的にどのような感情の変容が起こり、援助者や被援助者に対してどのような影響を与えているのかが明確に説明されていないままである。共感の内実が明らかにされていないのに、援助者は共感することを強いられ、自分の感情を上手に操作することができずに、混乱したりストレスが過重にかかるという現状が生じている。介護援助や看護援助の根本原理となっている「ケア」を行う際に、援助者の感情操作が求められているとするならば、援助者は自分自身の感情のあり方を再帰し反省できなければならない。ここでは、社会学的視点から「共感」概念の明確化を試みる。
著者
堀口 美智子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.83-93, 2010-02-25

就学前の子どもをもつ親は、子どもの成長や発達が順調であるかを心配したり、子育てのしかたに悩んだりすることが少なくない。孤立して育児をする現代の親の状況を考えると、子育て支援とは、「子育ての方法を知りたい」という新米の親から「子どもの問題にどのように対処したらよいのか」悩む親までを、広い範囲で対象にする必要がある。また、親たちが抱える問題に対症療法的に関わるだけではなく、問題を未然に防ぐための予防的支援が重要となる。そこで、5段階の介入・支援プログラムをもち、親のニーズや問題の内容にあわせて複数のプログラムを重層的に展開するオーストラリアの「トリプルP-前向き子育てプログラム」に注目した。本稿では、「前向き子育てプログラム」の理論枠組みや先行研究などを紹介し、大学における地域子育て支援の試みとして、筆者が2009年度に行った活動を報告した。
著者
馬場 結子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.69-82, 2011-02-25

本稿は、ルドルフ・シュタイナーの幼児教育について考察するものである。シュタイナーは、子どもの発達を基盤にしながら幼児期の子どもの特質を明らかにした。そこから、彼は幼児教育の内容や方法を考察したのである。このなかで、シュタイナーは、大人と子どもの関わりについて「模倣と模範」の論理を示しながら、幼児期の子どもが模倣によって学ぶこと、そのため大人(保育者)には模範的な態度が求められることを明らかにした。さらに、彼は、幼児の遊びには知的な要素ではなく、美的要素を重視して子どもの想像力を育むことを説いた。シュタイナー幼稚園ではこうしたことが実践されている。シュタイナーの幼児教育では、子どもの成長に合わせながら教育がおこなわれるのであり、子どもの立場を考慮した教育がおこなわれているといえるのである。
著者
三田寺 裕治
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-14, 2013-02-25

インシデントデータの収集・分析は事故の原因や再発防止策を検討する上で有効な手段の一つであることが指摘されている。医療分野では、インシデントレポートの電子化が進み、インシデントデータの収集・分析・共有を可能とするレポーティングシステムの開発が行われている。一方、介護分野においては、標準化された報告様式が整備されていないだけでなく、インシデントレポートの電子化が遅れており、紙媒体によってインシデントデータを収集している施設も多く散見される。本研究では、インシデント情報のコード化を行うとともに、インシデントデータを効率的に収集するためのwebブラウザ型のイシデントレポートシステムを開発した。また、開発したインシデントレポートシステムを用いて試行的にインシデントデータを収集し、介護保険施設におけるインシデントの発生状況及びインシデントに関連するリスク要因について検討した。
著者
大須賀 隆子 Takako OOSUGA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.47, pp.35-61, 2008

「小1問題」を引き起こす遠因が1989年に改訂された「幼稚園教育要領」(「保育所保育指針」も基本的理念は同じ)にあるという言説がある。実際に、保育者から寄せられた新聞投書や小学校教諭へのインタビュー、さらに保育研究者らの論文を通して、1989年の「幼稚園教育要領」の改訂を機に「保育現場では混乱が生じた」との指摘を見出すことができる。この指摘に対して筆者は、いわゆる「自由保育」と呼ばれた1989年の「幼稚園教育要領」以来、指導に戸惑った保育者のもとで、実質的な主体性が獲得されないまま幼稚園(保育所)を卒園した子どもたちが小学校に入学して、「小1問題」が引き起こされたという側面もあるのではないかと考えた。このような状況を踏まえて、本論文は「自由保育」の理念を検討し、その方法を探ることを目的とした。はじめに、1989年の「幼稚園教育要領」の原案は、倉橋惣三(1934)が提唱した「自己発揮や自己充実を見守り援助する保育」にあり、これが「自由保育」であることを明らかにした。倉橋は、子どもが「自発的生活」を発揮し充実するための方法として、子ども同士の「相互的生活」を位置づけている。ここに「自由保育」が今日の「小1問題」を引き起こした遠因のひとつであると指摘されている、その源流があるのではないかと筆者は考え、倉橋の提唱した保育が今日のこの国の子ども達においても十全に活かされるために、倉橋の考えた自己の在り方について検討した。その結果、Piaget-Vygotsky論争(1934)、広松渉(1972)、Stern(1985)、鯨岡峻(2004)を通して、Sternの「自己感」を基底に据えた、「I as We、 We as I」としての自己形成が、とりわけ今日の「自由保育」によって目指されることが望まれる自己の在り方であり、かつ「幼・小移行期」を貫く自己の在り方であることを明らかにした。そのうえで、「I as We、 We as I」としての自己形成を促す方法としてSternの提唱する「情動調律」の有効性について検討した。
著者
細井 香 Kaori HOSOI
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.49, pp.67-81, 2010

首都圏の保育・介護等の専攻コースを持つ女子短期大学の卒業生5000名を対象に「福祉(保育・介護)労働に関する調査」を実施した。回収された718名(回収率14.4%)のうち、現在、福祉労働に従事している288名の回答を分析した。本分析は、調査項目のなかから、「保育労働者の健康についての実態把握と、労働環境および関連要因との検討」を行うことを目的として行われている。分析の結果、保育労働者の約3割が健康状態を悪いと評価しており、自覚症状として「肩こり」、「腰痛」、「首のこり」などの症状を多くの者が訴えていた。また、健康状態の評価には、「ストレスの度合い」「身体の疲れ度合い」「仕事のやる気度」が影響を及ぼしていることが明らかとなった。
著者
萩原 英敏 Hidetoshi HAGIWARA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.44, pp.29-48, 2005

不和状態の親に対して、子どもの目から見て、どの様な親子関係を築いているかを明らかにする為、某女子大学生141名を対象として、「家庭環境の内容」「両親の争いの時の対処の仕方」を尋ねる26項目からなるアンケート調査、親子関係を調べるFDTを実施した。その結果、次の様な事が明らかになった。1.両親の不和など家庭内の対立が多く、不仲な関係が続くと、子どもは対母親、対父親両方共通して、「自分を情緒的に受容する事もなく、信頼もせず、拒絶するのみである。そして両親の考えも一致せずお互い不満が多い。それなら自分も両親との接触を避け、関わりをできるだけ持たないようにしよう」と考える様な、親子関係を築いている。2.この様な親子関係を築いている子どもは、両親の不仲な時の対処として、内面的に思い、また感じ、巻きぞえ的行動を起こす者に多く見られた。3.両親の不仲な時の対処の仕方で、対父親は、対母親に比べて、特徴ある親子間係は築いていなかった。4.以上の事から、両親の不和の時、対処の仕方が、内面的思い、また感じ、巻きぞえ的行動を起こす子どもは、親に対して、安全基地の役割を期待するような、親子関係を築けていない事が明らかになった。しかも父親より母親に対して、この特徴が明確に示された。
著者
長谷部 比呂美 池田 裕恵 日比 曉美 大西 頼子
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.31-48, 2015-02-25

近年の初等教育界の大きな問題として「小1プロブレム」が取り上げられている。新入学児に対して経験豊かな教師でさえ指導に窮している現象であり、こうした問題への対処として幼保小連携、環境移行、交流などの幼保小接続や、基本的生活習慣、ソーシャル・スキルの形成等で移行をスムーズにするという視点から、現在多くの方策が模索されている。しかし、その背後には単に小学校という場への慣れという問題では解決できない別の複数の要因が関わっていることが考えられる。近年の社会の急激な変化に伴い必然的に子どもを取り巻く環境自体も大きく変化し、子どもの育ちに直接的影響を及ぼしている。従って滑らかな移行といった対症療法では背後に潜む問題自体を解決することはできないであろうし、また環境移行以外の問題に対処することも困難であろう。本研究では、現在の日本社会で生じている子どもたちの問題を幼児期に遡って原因を探り、解決のためには幼児期に何が必要であるのかを解明する。首都圏の保育士および幼稚園教諭を対象に、近年の幼児や保護者に見られるようになった現象について質問紙調査を行い、今回はその第一報として最近の幼児の特徴と傾向を探った。その結果、「目的的調整力の低位」、「内発的活力の低位」、「行動・防衛体力の低位」、「生命維持力の低位」の4因子が抽出され、すでに幼児期において、多くの子どもに生来備わっているはずの健やかな育ちを求める機能が十分に育まれず心身共に脆弱性を抱えている傾向が明らかになった。
著者
浅木 尚実
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.37-49, 2016-02-25

OECDの提言により、国際的に幼児教育の質的向上が注目を浴びている。我が国でも「子ども・子育て関連三法」が施行され(2015年4月)、今後益々子育てを含む幼児教育の質的向上が求められる時代に入った。幼児期の「遊び」は、「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」でも保育内容の中心的課題となっている。本論では、北欧スウェーデンの幼児教育を取り上げ、幼児教育・保育における「遊び」と質的向上との関連を考察した。
著者
水野谷 憲郎
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.81-94, 2013-02-25

前紀要にて、東大寺南大門仁王像の迎角は確かに存在し、その迎角を想定して当初より造像されていると述べた。しかし、それは実証的根拠に乏しいものであった。この度美術院より「東大寺南大門金剛力士像修理報告資料写真」をお借りすることができた。それらの資料写真が見せる東大寺南大門仁王像の各部位が有する傾斜角を調べた結果、迎角があると結論するとともに前紀要で想定した傾斜角度はさらに急激であり、仁王像は当初より東西に向かいあう立ち位置にあったと判断した。
著者
永野 泉
出版者
淑徳大学短期大学部
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.79-88, 2006-02-25

「環境」という言葉は本来生物学の分野で使用され「生活体を取り囲む外界であり主体の生存と行動に関係があるもの」をいう。現在は生物学の分野以外に心理学、医学、物理学、化学、社会科学など多くの分野でも使われている。教育学、保育学の分野では現在でも近代教育の思想家であるルソー、フレーベル、デューイ、モンテッソーリ等が述べている環境論を引用して、教育における環境の重要性を説明しておりこれらの思想が受け継がれている。また昭和23年に公布された学校教育法第77条でも「幼稚園の目的」は「適当な環境を与えて、その心身の発達を助長する」と示され、さらに平成元年の「幼稚園教育要領」の改定では「幼稚園教育は、幼児の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする」と「環境」を通しての教育を行うことが明記された。保育において「適当な環境」としての具体的な環境構成を行う場合の考え方としては大きく二つに分けることができた。すなわち「ねらいを達成するための環境構成」と「自発的活動を確保するための環境構成」である。実際にどちらの環境構成を行うかについては現場の保育者に委ねられているわけであるが、幼児の特性や教育的視点から考えた場合「自発的活動を確保するための環境構成」を選択すべきであろう。しかしこの場合子どもが自発的に活動できる環境を保育者が準備するためには幼児の発達段階はもとより、その時々の興味や関心を把握し、子どものつぎの活動を予測する必要がある。これは保育者があらかじめねらいを決め環境を設定してそれに導く保育と比較した場合よりも、より高度な観察力、洞察力、経験などが要求されよう。この点からも環境構成を問題とすることは、すなわち保育者の資質や能力とも大きくかかわってくる問題といえる。
著者
大須賀 隆子 Takako OSUGA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.51, pp.127-149, 2012

「大地保育とは、太陽と水と土に象徴される自然を充分に取り入れる自由保育方式の総称」であり、「創美(創造美育協会)の精神から生まれたものだ」1)と塩川豊子注1)は述べている。本論文では、倉橋惣三が実践した保育論を基に自由保育について定義し、戦後日本において自由保育をタイトルとして書かれた4冊の書籍を概観することを通して、塩川豊子が実践した自由保育の特色が、「どろんこ保育」「自由画の指導」「食事場面と午睡場面の自己決定」にあると捉えた。この3つの保育実践が、戦後大きく影響を受けたと塩川豊子が言う創美とりわけ宮武辰夫、そして創美を通して学んだと言うホーマー・レインとA.S.ニイルの教育思想とどのように関連しているかを考察することによって、塩川豊子の自由保育の根幹にあるものを明かにしようと試みた。