著者
永野 結香 栗山 容子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.83-93, 2016

本研究では歯科治療下における就学前児の不快情動行動,言語的情動調整方略,治療への適合行動の3つの側面から,その発達的特徴を検討することを目的とした。対象児は年少児(3:1~3:9)7名と年長児(5:0~6:5)8名で,う蝕治療の初診時に行動評定とチェックリスト,ICレコーダーの録音記録による参加観察を行った。不快情動行動は治療開始期と終了期の評定値の差から不快情動継続群と沈静群を判定した。また言語的情動調整方略を子どもの発話カテゴリの基礎分析から定義して,情動中心(EC)方略と問題中心(PC)方略を判定した。その結果,年少児群では不快情動が継続したが,年長児群は非表出か沈静化していた。また年少児群はすべてEC方略であり,年長児群ではPC方略であったことから,不快情動の沈静化にPC方略の効果が窺われた。また情動調整行動としての治療への適合行動を,治療者の指示に従う受動的行動と自ら行う主体的行動から検討した結果,受動的,主体的いずれの適合行動数も年長児群のほうが多いが,年長児群であっても主体的行動数が受動的行動数を上回ることはなかった。このことから非日常的な治療場面の自己調整行動は日常的な場面よりも困難である傾向が窺われた。これらの結果は発達的特徴を考慮した患者対応の理論的,実証的根拠になると考えられる。