著者
栗山 容子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.79-96, 1989-02

前回の報告(1987)では,過去8年間のICUに於ける教育実習生の成績評価の資料分析を通して,実態調査の結果を報告した。本報告では,問題をさらに明確にするために,次の視点から検討を加える。第一に,教育実習生の教授スキルに関する評価項目の検討である。従来の評価項目は,実習校の指導教諭に記入してもらう評価項目が9項目(Q1.勤務状態,Q2.児童生徒に対する理解・愛情,Q3.児童生徒の取り扱い・評価の公平さ,Q4.学習指導の計画する能力,Q5.学習指導技術,Q6.研究的態度,Q7.学級・ホームルーム管理能力,Q8.学校ならびに教師に対する協力的態度,Q9.教師としての適性)である。前回の報告にあるように,これらの評価項目の因子分析の結果,1因子のみが抽出され,いずれの項目においても因子負荷量が高かった。特に,教師としての適性の因子負荷量が最も大きく,相対的に勤務状態のそれが最も小さいことから,教師の適性に関する一般因子と考えられた。これらの評価項目は教師としての適性の一面を捉らえているにしても,個々の項目が概念的レベルで記述されているために教育実習生に対する具体的なフィードバックとなりにくく,評価項目の検討の必要性が示唆された。また,9項目のうち,Q5.学習指導能力はQ7.学級・ホームルーム管理能力に次いで実習校教諭の評価が低かった。Q7.学級・ホームルーム管理能力については,実習生に学級を任せないケースが多いことからその理由を述べた。しかし,Q5.学習指導技術については,大学における各教科教授法等で指導が行われているが,この評価項目だけでは具体的にどのような点において教育実習生の指導技術に問題があるのか,その内容が明確になっていないので,指導に生かしにくい。そこで,一つの試みとして,教授スキルに観点を絞って,より具体的な行動のレベルでの評価を可能にする評価項目を作成し,これらを用いて教育実習生と実習生を指導した実習校教諭のそれぞれに実際の授業の結果を評価してもらい,評価項目の検討を加える。同時に,これらの結果から教授スキルの具体的内容を検討する。その際,各教科にはそれぞれ独自のスキルが必要とされるが,ここではどの教科にも必要とされる基本的な教授スキルを問題にする。また,教授スキルの内容が明らかになったところで,教育実習生の自己評価と指導教諭の評価の違いについて検討する。第二に,前回の報告で実習校が中学校の場合と高校の場合で指導教諭の評価に違いが見られ,中学教諭の方が9項目すべてにおいて有意に評価が低いという傾向があった。しかし,学習指導技術については,他の項目と比べると,実習校間の評価の差は最小であり,ともに評価が低いという傾向もみられた。そこで,教授スキルに関する具体的な行動レベルでの評価では,どのような違いがあるか,またその具体的内容を検討する。第三に,教授スキルに関する新しい評価項目と従来の評価項目の関連を検討する。いずれも,教育実習生の授業の事後評価を狙ったものであり,特に,従来の評価項目のQ5.学習指導技術,Q9.教師としての適性と教授スキル項目とは強い関連があると考えられる。
著者
永野 結香 栗山 容子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.83-93, 2016

本研究では歯科治療下における就学前児の不快情動行動,言語的情動調整方略,治療への適合行動の3つの側面から,その発達的特徴を検討することを目的とした。対象児は年少児(3:1~3:9)7名と年長児(5:0~6:5)8名で,う蝕治療の初診時に行動評定とチェックリスト,ICレコーダーの録音記録による参加観察を行った。不快情動行動は治療開始期と終了期の評定値の差から不快情動継続群と沈静群を判定した。また言語的情動調整方略を子どもの発話カテゴリの基礎分析から定義して,情動中心(EC)方略と問題中心(PC)方略を判定した。その結果,年少児群では不快情動が継続したが,年長児群は非表出か沈静化していた。また年少児群はすべてEC方略であり,年長児群ではPC方略であったことから,不快情動の沈静化にPC方略の効果が窺われた。また情動調整行動としての治療への適合行動を,治療者の指示に従う受動的行動と自ら行う主体的行動から検討した結果,受動的,主体的いずれの適合行動数も年長児群のほうが多いが,年長児群であっても主体的行動数が受動的行動数を上回ることはなかった。このことから非日常的な治療場面の自己調整行動は日常的な場面よりも困難である傾向が窺われた。これらの結果は発達的特徴を考慮した患者対応の理論的,実証的根拠になると考えられる。
著者
栗山 容子 大井 直子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.158-169, 2012

価値をアイデンティティ発達の中核に位置づけて,日本の大学生の価値意識を面接によって明らかにし,意味付与の志向性から構造化を試みた。またその発達的変化を追跡面接によって検討した。面接の内容領域のうち,生きていく上で大切なことという価値意識に関する分析を中心に揺らぎの経験や両親の価値の認知,宗教的価値意識を補足分析として実施した。研究1では1年生42名と4年生24名のスクリプトから8つの価値パターンを抽出した。価値パターンの意味付与の方向性から,自己志向(理性,努力・達成,自己準拠の3価値パターン),社会志向(人間関係,博愛・貢献,社会規範の3価値パターン),現実志向(積極行動,安楽・充足の2価値パターン)の3つの志向モードに構造化した。普遍的な価値に対応する価値パターンの他に"人間関係"や"自己準拠"の青年期に固有の価値パターンが明らかになった。1年では社会志向の"人間関係"が他の価値パターンに比して有意に多く見られたが,4年では偏りが少なく,個々の価値意識が窺われた。また4年では価値意識の揺らぎが落着し,両親の価値観の認知に個別性がみられた。研究2では研究1の1年生で,卒業時の追跡面接が実施できた30名について価値意識の変化を検討した。その結果,変化の方向性は一様ではなかったが,自己志向と社会志向に関連して青年期に特有の変化過程が推測された。