著者
関屋 幸平 山本 響子 江上 健 川内 撞恵
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.314-314, 2003

[はじめに]脳血管障害に下肢切断を伴う症例は少なくない。今回、脳血管障害に伴い閉塞性動脈硬化症(ASO)にて非麻痺側下肢大腿切断によりADL能力が低下した患者の、寝返り・起き上がり動作に対する理学療法アプローチについて報告する。[症例紹介]78歳女性で、平成12年12月心原性脳塞栓症にて左片麻痺。平成14年7月に右側下肢ASOと診断され同月に右側下肢大腿切断術を施行した。B/S上肢II,下肢IVであり、MMTで右側上肢筋力はG、体幹筋力はFレベル。身辺ADL能力は、切断前において寝返り・起き上がり動作ともに監視から軽介助レベルであったが、切断後では寝返り・起き上がり動作とも全介助レベルに低下した。[アプローチとその経過]寝返り動作に対しては右側上肢にてベッド柵を握り肘関節の屈曲動作により体幹を右側へと回旋させる方法を指導した。訓練開始当初は肩甲帯の回旋後、骨盤の回旋が難しくベッド柵から手を離すと背臥位に戻ってしまい半側臥位までしか寝返りを行えなかった。そこで、開始肢位をベッド30度ギャッジアップし体幹を軽度屈曲位とすることで骨盤の回旋に続く麻痺側下肢の回旋が行いやすいのではと考え実施した。その結果介助を必要とせず寝返る事が可能となった。その後も1・2週間ギャッジアップを利用して徐々に角度を低くすることで、背臥位からの寝返り動作を獲得できた。また、寝返り動作訓練と並行して起き上がり動作訓練も実施してきた。起き上がり動作は切断前動作の再獲得を目指した。訓練開始当初では、起き上がる際断端部への荷重痛が強いこと、体幹筋の筋力低下のため介助なしでは頭部の挙上しか行えなかった。そのため、体幹筋の筋力強化訓練を追加し反復訓練を実施した結果、軽介助にて起き上がることが可能となった。[今後の課題]現在、リハ室内でベッド柵使用にて寝返り動作は自立、起き上がり動作は監視から軽介助レベルである。しかし、病棟においては患者の依存心が強く、獲得した動作を活用できていない。今後の課題としては獲得した動作の実用化にあるのではと考える。そのためにも患者への指導だけでなく、病棟スタッフとの連携が重要と考えている。 [まとめ]非麻痺側下肢の機能を失ったことで、残された機能を生かし寝返り・起き上がり動作の獲得を目標にアプローチを実施してきた。ベッド柵使用であるが、ADL能力は向上してきたといえる。
著者
丸田 一郎 江上 健
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2178-BbPI2178, 2011

【目的】応用行動分析学は、近年注目を集め、理学療法学における研究もされている。しかし、実際の臨床において、「しているADL」が拡大できない理由について、意欲低下や依存心といった言葉で片付けられることが多い。今回食事場面でのADL練習を行い、食事動作が「しているADL」に定着した症例について応用行動分析学的考察を行ったので以下に報告する。<BR>【方法】症例は、多発性硬化症により四肢麻痺を呈する70歳代の男性である。感覚は表在感覚および深部感覚中等度鈍麻、全身性のしびれ感と疼痛を有している。筋力はMMTで頚部3、肘関節屈曲3、その他四肢と体幹2、握力は左が1kgで右が0kgである。ADLは重度介護を必要とし、FIMで運動項目が15点、認知項目が31点である。ナースコールは手に固定して中指でなんとか押せる状態で、日中は食事と理学療法時以外は臥床して過ごしている。<BR>本症例は、上肢機能の回復が比較的良好であり、本人の希望もあり自立する可能性と必要性が高い食事動作に対して自立を目標に介入した。当初は、筋力と筋持久力の向上を目的にリハビリテーション室での食事動作練習を中心に行ったが効果に乏しかったことから、実際の食事場面でのADL練習のみを行うようにした。<BR>食事場面での練習の方法としては、ベッドフルギャッジアップにて自助具を用い可能な限り自己摂取を促し、疲労が出現した時点で介助により食事をとるようにした。しかし阻害因子として、しびれ感や疼痛といった異常感覚の増悪および疾病からくる易疲労性があり、食事動作の持久性の低下が認められた。 <BR>セラピストが練習として立ち会っている食事場面では、異常感覚の増悪と易疲労性はあるものの自助具を用い20口程度食事動作を行うことが可能であった。しかし、セラピストが立ち会っていない食事場面では、10口程度食事動作を行うと介助を希望し、自己摂取量を増やそうとしないことが続いた。<BR>そこで介入方法を変更し、本人了解のもと、ギャッジアップ座位時間の延長を目的に自己摂取終了時から介助を行うまで10分時間をおくように条件設定を行った。また、ギャッジアップに対しても食事動作と同様に持久性の低下があるにもかかわらず、症例の思考の中には「早く食べ終えれば早く寝られる」という考えがなかったことから、その考え方の提示を行った。<BR>【説明と同意】本研究は当病院の倫理委員会で承認され、研究の目的や方法について記載した同意書を用い本人に十分説明した上で同意していただいた。<BR>【結果】条件設定の変更後、自己摂取終了時より10分間、介助を行わない間に、なるべく自己にて摂取する量を増やし、介助にて摂取する量を少なくして、食事を早く終了しようとする様子がみられた。その後徐々に自己摂取量が増加した。5ヵ月後には異常感覚の増悪について変化は無かったものの、筋力と筋持久力には改善を認めた。そして食事動作の持久性は向上し、全量自己摂取が可能となり、「しているADL」に定着することができた。<BR>【考察】応用行動分析では、ABC分析の中で、行動に対する先行刺激と後続刺激の整備を行い、個人と環境の相互作用にアプローチを行う。これを症例に対し当てはめ考えていくと行動は「食事をする」になり、先行刺激は「早く食べ終えれば早く寝られる」、後続刺激は、「実際に早く寝られた経験」と「異常感覚の増悪」、「疲れたら介助により食べられる」となる。<BR>当初、食事動作の持久性の向上がみられず、「しているADL」がなかなか定着しなかった原因として、有効的な強化刺激に乏しく、「異常感覚の増悪」と「疲れたら介助により食べられる」といった嫌悪刺激が強いことがあげられる。そこで、条件設定の変更と「早く食べ終えれば早く寝られる」というポジティブルールの提示によって、「食事介助開始までの10分間に自己摂取量を増やせば、早く寝られる」という状況を作ることができた。そのことが自己摂取量を増やすことに対しての取り組みを促進する活動性強化となった。そして、自己摂取量を増やし、「実際に早く寝られた経験」を繰り返す事で更なる強化刺激が生じ、更なる自己摂取量増大を促進したものと考える。以上より、条件設定と思考提示により「自己摂取量を増やせば、早く寝られる」という状況を作ったことで「実際に早く寝られた経験」という強化刺激を生じさせる事ができたと考える。そして、学習の経過と結果が行動内在型強化として働くようになったことで食事動作が「しているADL」に定着したものと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回は経験的にADL練習を行い「しているADL」が定着したにすぎない。臨床において、意欲低下や依存心という言葉はあくまでも結果であり、それらを生じさせている原因があることを常に考え理学療法を行うことが重要である。