著者
江上 有紀 椚座 圭太郎
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.139-155, 2016-10-25

本研究の目的は,「子宮頸ガン予防ワクチン接種の是非」を教材として用い,「生物基礎」を実際的に「日常生活や社会」に役立つようにする授業実践のあり方を提案することにある。学習指導要領では,日常生活や社会と関連した教材として「エイズ」や「糖尿病」といった疾患を挙げているが,生徒にとって当事者性の低い話題であり,免疫学習の一例に留まってしまう可能性が高い。また,先に述べたように子宮頸ガン予防ワクチン問題解決には,生物学のみならず,保健衛生学,医学から情報まで知識や活用力,すなわち生命科学リテラシーが必要である。そこで今回は,「生物基礎」の授業の中で,子宮頸ガン予防ワクチン関連分野として「免疫」「ガンの細胞学的理解」を丁寧に行い,それらを生かせる情報検索の時間を設け,自己決定力を育むことを目標とする授業展開を試みた。比較のため,「社会と情報」科目で同じテーマの情報検索を行う授業を行い,本研究の「生物基礎」授業の効果を調べた。授業実践の結果,拡張した「生物基礎」授業により,情報のリテラシーが高まり,さらに自己決定力,社会への関心が高まるという連鎖の効果が見いだされた。本論文では,実践結果を報告するとともに,科学的理解が自己決定力や社会性をもたらすメカニズムを論じ,それをふまえた高校教育における知識基盤社会,アクティブラーニング,合科授業,キャリヤ教育や18歳選挙権への対応について考察する。