著者
江口 匠
雑誌
学習院大学大学院日本語日本文学
巻号頁・発行日
no.14, pp.21-46, 2018-03

本稿では、現代日本語共通語に見られる逆接表現形式「こそすれ」「こそあれ」「こそなれ」(併せてコソスレ類)の実態と成立について考察した。これらは古典語コソ已然形節の残存形式とされる程度で、一部の方言研究を除けばほとんど研究されていない。 結論は以下の6 点である。(1)コソスレ類の前接語には生産性が十分に見受けられる。(2)コソスレ類を含んだ従属節(コソスレ節)はテンス・ムード・丁寧さが主節述語に依存している点で、いわゆる「南モデル」のA 類に相当する。(3)コソスレ類は2 用法に分けられ、主節事態内容⊃コソスレ節事態内容であり、ノニに置き換えられない「補強型」と、コソスレ節と主節とに時間的前後関係があり、ノニに置き換えられる「想起型」とがある。(4)コソスレ類を含んだ文(コソスレ文)の文類型は平叙文だけでなく、「反語」「確認要求」も現れる。(5)古典語コソ已然形節とコソスレ節の統語構造は異なっているため単純な古典語の残存とは見なせず、コソスレ類は連語的な接続助詞に位置づけられる。(6)古典語コソ已然形節には見た目上の「こそすれ」「こそあれ」が存在するが、特に例数の多い「こそあれ」を一つの形式として再分析し、さらに類推によって「こそあれ」を「こそ+動詞已然形」として拡大解釈し、形式動詞「する」の利便性から「こそすれ」が多く用いられていったことが想定できる。
著者
江口 匠
雑誌
学習院大学大学院日本語日本文学
巻号頁・発行日
no.14, pp.21-46, 2018-03

本稿では、現代日本語共通語に見られる逆接表現形式「こそすれ」「こそあれ」「こそなれ」(併せてコソスレ類)の実態と成立について考察した。これらは古典語コソ已然形節の残存形式とされる程度で、一部の方言研究を除けばほとんど研究されていない。 結論は以下の6 点である。(1)コソスレ類の前接語には生産性が十分に見受けられる。(2)コソスレ類を含んだ従属節(コソスレ節)はテンス・ムード・丁寧さが主節述語に依存している点で、いわゆる「南モデル」のA 類に相当する。(3)コソスレ類は2 用法に分けられ、主節事態内容⊃コソスレ節事態内容であり、ノニに置き換えられない「補強型」と、コソスレ節と主節とに時間的前後関係があり、ノニに置き換えられる「想起型」とがある。(4)コソスレ類を含んだ文(コソスレ文)の文類型は平叙文だけでなく、「反語」「確認要求」も現れる。(5)古典語コソ已然形節とコソスレ節の統語構造は異なっているため単純な古典語の残存とは見なせず、コソスレ類は連語的な接続助詞に位置づけられる。(6)古典語コソ已然形節には見た目上の「こそすれ」「こそあれ」が存在するが、特に例数の多い「こそあれ」を一つの形式として再分析し、さらに類推によって「こそあれ」を「こそ+動詞已然形」として拡大解釈し、形式動詞「する」の利便性から「こそすれ」が多く用いられていったことが想定できる。
著者
江口 匠 Takumi Eguchi
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.14, pp.59-77, 2016-03

接続助詞「て」には多くの用法が存在するが、その逆接を表す場合については十分な分析がなされていない。逆接用法の存在は指摘されているものの、例えば「文脈から判断される」程度の記述で、その構文的条件、意味的派生過程に関する考察はほとんどなされていない。そこで、本稿では「て」の〈逆接〉を統語規則・語彙的制約から3 分類し、構文的条件を明らかにすることを試みた。それに併行して、類義形式と捉えられ得る「が・けれど」「のに」と比較し、それらとの相違と「て」の〈逆接〉の独自性について考察した。〈逆接〉を表す「て」は以下の3 つに整理できる。①シテ節とその主節とで一つの慣用句的表現として成立する「X してX しない[ふり/顔]をする」構文で表され、X には「知る」「見る」「聞く」が用いられる。既に知覚した事態にもかかわらず知覚していないように装うことで、〈逆接〉として解釈されることから《偽装》型と名付ける。②「X していてY する」構文で表され、X に「知る」「わかる」、Y に動作動詞が用いられる。動作の対象にとって不都合だと承知の上で行動を起こすことで、〈逆接〉らしさが生まれることから《敢行》型と呼称する。③指示表現や数詞が共起し、「X してY しない」「X してY するのか」「X してY する[補文標識]Z である」(Zは評価を表す述語)の3 構文のいずれかで表される。一般論と現実の状態・属性とが相反することで〈逆接〉と捉えられ、その有り様に対して話者が意外・不満の感情を抱くことから《意外性》型と呼ぶ。以上3 つとも、構文的・意味的に一定の型があることがわかった。The conjunction “te” has many usages. It is said that contradictory conjunction “te” is decided from the context, however its syntactic and semantic feature don’t become apparently.Therefore, I classified the contradictory conjunction “te” into three types from vocabulary terms and syntactic rules. Besides, through comparisons of synonyms with “te” as contradictory conjunction, “ga” and “noni”, I emphasize the characteristic of it.The first type involves, «pretending». It is represented by the following sentence structure:“XshiteXshinaihuriwosuru”. Verbs such as “miru”, “kiku”, or “shiru” are placed where there is an X. From that we pretend to not recognize a situation, though we were recognized, I named it «pretending». The second type involves an, «intentionally act». It is represented by sentence structure: “XshiteiteYsuru”. Verbs such as “siru” or “wakaru” is placed where there is an X,and a different verb is placed where there is a Y. From that we take action on the agreement that it is inconvenient for an object of an agent. I called it «intentionally act». The third type involves a, «comparing». It is that demonstrative or numeral co-occur contradictory conjunction “te”, and it is represented by sentence structure: either “XshiteYshinai”, “XshiteYsurunoka” or“XshiteYsuru [toha, nante or noha] Zdearu”. From that a reality contradict a condition is generally supposed, I named it «dissatisfied». Finally, this paper introduced that “te” as contradictory conjunction has three types which is syntactically and semantically different.
著者
江口 匠
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.14, pp.59-77, 2015

接続助詞「て」には多くの用法が存在するが、その逆接を表す場合については十分な分析がなされていない。逆接用法の存在は指摘されているものの、例えば「文脈から判断される」程度の記述で、その構文的条件、意味的派生過程に関する考察はほとんどなされていない。そこで、本稿では「て」の〈逆接〉を統語規則・語彙的制約から3 分類し、構文的条件を明らかにすることを試みた。それに併行して、類義形式と捉えられ得る「が・けれど」「のに」と比較し、それらとの相違と「て」の〈逆接〉の独自性について考察した。〈逆接〉を表す「て」は以下の3 つに整理できる。①シテ節とその主節とで一つの慣用句的表現として成立する「X してX しない[ふり/顔]をする」構文で表され、X には「知る」「見る」「聞く」が用いられる。既に知覚した事態にもかかわらず知覚していないように装うことで、〈逆接〉として解釈されることから《偽装》型と名付ける。②「X していてY する」構文で表され、X に「知る」「わかる」、Y に動作動詞が用いられる。動作の対象にとって不都合だと承知の上で行動を起こすことで、〈逆接〉らしさが生まれることから《敢行》型と呼称する。③指示表現や数詞が共起し、「X してY しない」「X してY するのか」「X してY する[補文標識]Z である」(Zは評価を表す述語)の3 構文のいずれかで表される。一般論と現実の状態・属性とが相反することで〈逆接〉と捉えられ、その有り様に対して話者が意外・不満の感情を抱くことから《意外性》型と呼ぶ。以上3 つとも、構文的・意味的に一定の型があることがわかった。The conjunction "te" has many usages. It is said that contradictory conjunction "te" is decided from the context, however its syntactic and semantic feature don't become apparently.Therefore, I classified the contradictory conjunction "te" into three types from vocabulary terms and syntactic rules. Besides, through comparisons of synonyms with "te" as contradictory conjunction, "ga" and "noni", I emphasize the characteristic of it.The first type involves, «pretending». It is represented by the following sentence structure:"XshiteXshinaihuriwosuru". Verbs such as "miru", "kiku", or "shiru" are placed where there is an X. From that we pretend to not recognize a situation, though we were recognized, I named it «pretending». The second type involves an, «intentionally act». It is represented by sentence structure: "XshiteiteYsuru". Verbs such as "siru" or "wakaru" is placed where there is an X,and a different verb is placed where there is a Y. From that we take action on the agreement that it is inconvenient for an object of an agent. I called it «intentionally act». The third type involves a, «comparing». It is that demonstrative or numeral co-occur contradictory conjunction "te", and it is represented by sentence structure: either "XshiteYshinai", "XshiteYsurunoka" or"XshiteYsuru [toha, nante or noha] Zdearu". From that a reality contradict a condition is generally supposed, I named it «dissatisfied». Finally, this paper introduced that "te" as contradictory conjunction has three types which is syntactically and semantically different.