著者
江頭 祐亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

最終年度である平成24年度は,前年度で高精度化した陽子線線量分布計算アルゴリズムの実験的な検証を行なった。元来電子線治療に対する線量分布計算法であるPBRA (Pencil Beam Redefinition Algorithm)法を陽子線治療に応用することによって高精度線量分布計算アルゴリズムの実装を行ない、実験的に検証を行なった。PBRA計算法の最大の特徴は,側方向の位相空間の変化に加えて,エネルギーの位相空間の変化を考慮した六次元の位相変化を評価することによって輸送計算毎にPBを再定義することが可能である点である.このPBRA計算法における物理的特性によって,再定義によって再発生したPBは,従来のPBの軌跡が考慮することのできないビームの軌跡を描くことが可能であることを示している。また,PBRA計算法のアルゴリズムとしての妥当性を確認した上で,PBを分割することによる不均質媒体に対する線量分布への影響の評価を行った。この評価では,人体の不均質を模擬した異なる2つのファントムを作成し,PBの深さ毎の分割数が増加するにつれ計算値と測定値の相違が小さくなることを確認し,更に不均質媒体の直上でPBを分けることによって精度が向上することを示した。続いて,PBRA計算法による計算結果とファントム測定の結果の比較による精度向上に対する評価を行った.この評価では,上記の不均質スラブファントムに加えて,より人体の構造に近い模擬人体ファントムを用いており,PBRA計算法がPBA法に対して,より人体に近い体系に対して計算精度が向上することを示した。更に,アルゴリズムの高速化と,高速PBRA計算法を搭載した陽子線治療計画システムの開発を行った。