著者
西川 精宣 森 隆 狩谷 伸享 池下 和敏
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、racemic ketamineと比べて強い鎮痛作用、睡眠作用を持つS(+)-ketamineの硬膜外投与と全身麻酔薬を同時投与した場合の循環に対する作用の機序を解明することである。Whole animal study(ウサギ)で1%(0.5MAC)イソフルレン麻酔下に racemic ketamine,S(+)-ketamineを0.5mg/kgおよび1.0mg/kg下胸部硬膜外投与すると、ともに動脈圧、心拍数、腎交感神経活動のは有意に低下したが、この投与量の範囲では用量依存性も異性体特異性も支持する結果は得られなかった。また、Muscarine M2受容体やNOの関与も否定的であった。ウサギ定流量ランゲンドルフ標本でracemic ketamineとS(+)-ketamineのdose-response curveを作成した結果では、IC_<50>はともに300μM前後の高濃度であり、2剤間で有意差を認めなかった。両者が持つナトリウムチャンネルの遮断作用が高濃度で神経周囲に分布したため差が出なかった可能性がある。当初、脊髄の中間質外側細胞柱の細胞を培養してパッチクランプ法で検討する予定であったが、分離・培養に難渋した。継代培養したラットのmicroglial cell lineが入手できたので、この細胞でPatch clamp studyでの実験を施行したところ、イオンチャンネル型ATP受容体のP2X7受容体の電流に対しては、臨床濃度のチオペンタールでは増強作用があったが、臨床濃度(100μM)のケタミンでは有意な作用を示さなかった。一方、高感度でリアルタイムに組織のATP濃度を測定できるバイオセンサーを用いて、細胞外伝達物質としてのATPの増減を脊髄で調べ、交感神経活動との伝達機構としてのATPの役割の検討を試みた。低酸素刺激をはじめとした神経障害誘発で脊髄のATP濃度と交感神経活動の変化を測定し、S(+)-ketamineとracemic ketamineの作用の検討を行った。しかしながら、さまざまな神経障害刺激を負荷しても脊髄の細胞外ATP濃度の上昇が観察されず、バイオセンサー自体のATP特異性反応にも疑問が持たれた。