著者
西川 悟 池平 博夫
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.109-122, 1995-04-01
参考文献数
31

天然^<13>C-MRS法を用いて安全性を保ちつつ, 人体からカーボンスペクトルの測定を試みた。さらに本法を用いて, ヒト肝臓, 骨格筋におけるグリコーゲン代謝の食事, 運動などの影響を測定し, 臨床応用に向けて基礎的な検討を行った。使用装置は市販の1.5テスラMRIで, 送受信には肝臓, 骨格筋に合わせ^<13>C用コイルを作製して用いた。対象は健康男子ボランティアである。ヒト肝臓において, 脂肪酸アシルチェーンのスペクトルが12.4-39.3ppmに, グリセロールおよびグリコーゲン(C2-C6)が53.8-75.2ppm, グリコーゲン(C1)が95.6-106.3ppm, 脂肪酸二重結合が126.0-135.5ppm, クレアチンが158.3ppm, 脂肪酸, 蛋白, リン脂質などのエステル結合が172.9ppmに見られた。グリコーゲン(C1)スペクトルより, 肝臓グリコーゲンが食事により上昇しその後除々に減少していく経過を, また運動により早期の段階から減少する様子をとらえた。グルコース投与例においては肝臓内に取り込まれたグルコースピークを, C1-αは88.0, 98.8ppmに, C1-βは91.9, 102.1ppmに認めた。これらグルコースから肝臓内でグリコーゲンが合成され, それが時間と共に減少していく過程を追跡できた。骨格筋においては炭水化物ローディング法を用いて, グリコーゲン量の変化を測定可能であった。蛋白中心の食事と激しい運動により一時的に減少するものの, その後の高炭水化物食の投与で除々に増加し, 第7日日には施行前の約130%を呈していた。^<13>C-MRS法を用いて, 骨格筋および肝臓内グリコーゲンの細胞レベルでの代謝や調節過程を, 瞬時にしかも無侵襲に測定できる可能性が示唆された。