著者
池田 孝則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.527-538, 2003 (Released:2003-11-20)
参考文献数
35
被引用文献数
33 39

イベルメクチン(ストロメクトール)は放線菌Streptomyces avermitilisの発酵産物アベルメクチン類から誘導された半合成の環状ラクトン経口駆虫薬である.イベルメクチンは線虫Caenorhabditis elegans(C. elegans)の運動性を濃度依存的に阻害した.C. elegansの膜標本には,イベルメクチンに高親和性の特異的結合部位が存在し,イベルメクチン類縁体のこの結合部位に対する親和性とC. elegansの運動抑制作用の間には,強い正の相関が認められたことから,イベルメクチンの抗線虫活性には,本部位に対する結合が重要であることが示唆された.C. elegansのpoly(A)+RNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入すると,イベルメクチンにより不可逆的に活性化されるクロライドチャネルの発現が確認された.本チャネルの薬理学的性質から,イベルメクチン感受性のチャネルはグルタミン酸作動性クロライドチャネルであることが示された.このグルタミン酸作動性クロライドチャネルについては,2つのサブタイプ(GluCl-αおよびGluCl-β)がクローニングされ,それらがグルタミン酸作動性クロライドチャネルを構成していることが示唆された.以上の結果からイベルメクチンは,線虫の神経又は筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロライドチャネルに特異的かつ高い親和性を持って結合し,クロライドに対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極を引き起こし,その結果,線虫が麻痺を起こし死に至るものと考えられた.ヒツジおよびウシの感染実験において,イベルメクチンは,Haemonchus,Ostertagia,Trichostrongylus,Cooperia,Oesphagostomum,あるいはDictyocaulus属に対し,投与量に依存した強い駆虫効果を示した.糞線虫属Strongyloidesに感染したイヌ,ウマおよびヒトに対しても,駆虫活性が報告されている.本邦における第III相試験では,糞線虫陽性患者50例を対象に本剤約200 µg/kgが2週間間隔で2回経口投与された.投与4週間後に実施された2回の追跡糞便検査による駆虫率は98.0%(49/50例)であった.
著者
福住 仁 池田 孝則 成田 裕久 田窪 孝年 松田 卓磨 谷口 忠明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.495-502, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
29

フィナステリドは5α-還元酵素II型(5αR2)の阻害薬で,頭皮や前立腺などの標的組織において,テストステロン(T)から,ジヒドロテストステロン(DHT)への変換を選択的に阻害する.フィナステリドの5αR2阻害作用の選択性は高く,ヒト由来5α-還元酵素I型(5αR1)とヒト由来5αR2で比較した場合,約120~600倍であった.DHTは男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)の主な原因として知られており,したがって,DHTの生成を阻害することでAGAを改善できると考えられた.また,フィナステリドはアンドロゲン,エストロゲン,プロゲステロン,グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド受容体に対するin vitroにおける親和性を示さず,また,in vivoにおける直接的なエストロゲン様作用,抗エストロゲン作用,ゴナドトロピン分泌抑制作用,アンドロゲン様作用,プロゲスチン様作用および抗プロゲスチン作用を示さなかった.AGAモデル動物であるベニガオザルにフィナステリド(1 mg/kg/day)を6ヵ月間経口投与したところ,毛髪重量と毛包の長さは増加し,ヘアサイクルにおける成長期の毛包が増加した.AGAの男性を対象とした48週間の本邦臨床試験で,投与前後の写真評価および患者自己評価により有効性を評価した結果,フィナステリド1日1回0.2 mgおよび1 mg群の有効性はプラセボ群に比べて有意に優れ,忍容性は良好であった.外国臨床試験において,頭頂部の脱毛症に対する5年間にわたるフィナステリド1 mg投与はおおむね良好な忍容性を示し,頭髪を改善した.また,フィナステリド1 mgは前頭部の脱毛症においても頭髪を改善し,別の外国臨床試験では,ヘアサイクルを改善した.フィナステリド(0.2 mgおよび1 mg)は5αR2の選択的阻害という作用機序に基づいて明らかな有効性を示し,長期投与時の安全性も高いことから,男性における男性型脱毛症用薬として有用な薬剤になると考えられる.
著者
池田 孝則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.527-538, 2003-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2 39

イベルメクチン(ストロメクトール)は放線菌<i>Streptomyces avermitilis</i>の発酵産物アベルメクチン類から誘導された半合成の環状ラクトン経口駆虫薬である.イベルメクチンは線虫<i>Caenorhabditis elegans</i>(<i>C. elegans</i>)の運動性を濃度依存的に阻害した.<i>C. elegans</i>の膜標本には,イベルメクチンに高親和性の特異的結合部位が存在し,イベルメクチン類縁体のこの結合部位に対する親和性と<i>C. elegans</i>の運動抑制作用の間には,強い正の相関が認められたことから,イベルメクチンの抗線虫活性には,本部位に対する結合が重要であることが示唆された.<i>C. elegans</i>のpoly(A)<sup>+</sup>RNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入すると,イベルメクチンにより不可逆的に活性化されるクロライドチャネルの発現が確認された.本チャネルの薬理学的性質から,イベルメクチン感受性のチャネルはグルタミン酸作動性クロライドチャネルであることが示された.このグルタミン酸作動性クロライドチャネルについては,2つのサブタイプ(GluCl-&alpha;およびGluCl-&beta;)がクローニングされ,それらがグルタミン酸作動性クロライドチャネルを構成していることが示唆された.以上の結果からイベルメクチンは,線虫の神経又は筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロライドチャネルに特異的かつ高い親和性を持って結合し,クロライドに対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極を引き起こし,その結果,線虫が麻痺を起こし死に至るものと考えられた.ヒツジおよびウシの感染実験において,イベルメクチンは,<i>Haemonchus</i>,<i>Ostertagia</i>,<i>Trichostrongylus</i>,<i>Cooperia</i>,<i>Oesphagostomum</i>,あるいは<i>Dictyocaulus</i>属に対し,投与量に依存した強い駆虫効果を示した.糞線虫属<i>Strongyloides</i>に感染したイヌ,ウマおよびヒトに対しても,駆虫活性が報告されている.本邦における第III相試験では,糞線虫陽性患者50例を対象に本剤約200 &micro;g/kgが2週間間隔で2回経口投与された.投与4週間後に実施された2回の追跡糞便検査による駆虫率は98.0%(49/50例)であった.<br>