著者
月村 泰治 池田 珠江
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.25-32, 1982-01-18
被引用文献数
10 4

脳性麻痺における起立の不安定性(standing instability)を重心図により定量的に捉え, これを全体的な運動機能の評価法の一つとして採用し, その有効性については既に報告して来たが, 今回はこれらに加えて起立の安定域をCross Testにより検討してみた.正常成人にいおいてはCross Testにおける前後, 左右への体重心の動揺は足長, 足幅の60%程度であり, テスト前後の重心位置の戻り(復元能力)も極めて良好である.一方, 脳性麻痺においても起立の安定域は存在し, 機能障害の程度により, その重心動揺の拡がりと重心図のパターンは特有であり, 正常成人との比較を定量的に捉えることができた.機能的に良好なものではかなり正常に近い値を示し, 重心図におけるcrossもはっきりしているが, 機能障害の大きいものでは重心図の上では充分なcrossは描けず, 逆に前後へのshiftが逆転するものがみられた.また, これらの症例をみると, 重心図の上では起立の安定域とstanding instabilityとの差が少なく, 直立位保持のためのbody swayとCross Testの際の意図的body swayとがほとんど変わらないことを示している.このようにCross Testにおける重心動揺の拡がりとその重心図のパターンは患者の機能障害に応じていろいろな幅を示し, 単なる直立位の重心図よりも, より詳細にその機能障害の程度を表現してくれる.これらのことから機能障害の評価には単にstanding instabilityだけではなく, 起立の安定域を評価することが必要であり, これにより起立のバランス制御の様子を知り, 従来よりはより的確に機能の状態を重心図の上から捉えることが可能である.また逆にこれらを検討することにより患者の機能的予後を知り, 治療効果の判定などを定量的に行うことが可能であることを知った.今後定期的に検査を続行してフォローを重ね, 症例をふやして, よりよい評価法として確立してゆくつもりである.