- 著者
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辻 健
石塚 師也
池田 達紀
松岡 俊文
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2016年大会
- 巻号頁・発行日
- 2016-05-19
衛星データの解析、地表調査、地震データの解析を用いて、2016年熊本地震の断層活動とその断層セグメントの境界の特徴を調べた。衛星データに干渉SAR解析を適用した結果から、一連の断層活動に伴う地表変動を明瞭に知ることができる。その干渉SAR解析の結果をもとに現地調査を実施し、実際の地表変動を確認した。特に阿蘇山周辺にみられた複雑な地表変動に注目した。干渉SAR解析の結果から、九州西部(熊本市〜阿蘇山)では北東—南西方向に伸びる直線状の断層システムを確認できるが、局所的な変動に注目すると火山といった地質の不均質性に影響を受けた断層活動や地表変動を確認できる。4月16日に発生した本震(M7.3)では、阿蘇山より南西側の断層が活動しており、阿蘇山周辺で断層運動が止まったことが分かる。断層運動は右横ずれであるため、断層のエッジの南側にあたる阿蘇山では水平方向への引っ張りの力が働き、北側にある大津町周辺は圧縮の力が働いている。実際に、阿蘇山のカルデラ内部は引張による地表の沈降が明瞭に認められる。特に大きく沈降している地域はマグマ溜まりの位置とも整合的で、引張に伴うマグマ溜まりの変形が関係している可能性がある。このような変動は2011年の東北地方太平洋沖地震でも確認されている。現地調査でも、引張に伴うとみられる巨大な開口亀裂が阿蘇市狩野(カルデラ内部)に見られた。巨大亀裂の開口幅は約1m以上あるものもあり、走向は北東—南西方向で本震の断層と方向が整合的であった。一方で、断層の北側に位置する菊池郡大津町では、本震断層とは異なったいくつかの断層運動が認められた。これらの断層の走向は東西方向で、逆断層運動をしている可能性がある。現地調査では、この大津町でみられた地表変形には横ずれ方向への運動は認められなかった。これらは阿蘇山という火山岩体西部での急激な本震断層の停止とそれに伴って生じる局所的な圧縮の力によって形成されたと考えられる。本震の約2時間後(4月16日3:55)に阿蘇で発生したマグニチュード5.6の地震では、震源が阿蘇山の北東側へと進展し、九重連山へと達している。干渉SAR解析の結果からも、その直線的な変動を見ることができる。熊本〜阿蘇〜九重にかけての地震メカニズム(横ずれ断層)と九重〜大分にかけての地震メカニズム(正断層)は異なることから、九重連山は地殻に働く応力分布の境界として働いている可能性がある。これらのことから火山(阿蘇山や九重連山)は、地震のセグメンテーションの境界として働いている可能性がある。これは火山体や火山性堆積物の強度は他の場所とは異なっていることや、断層の摩擦特性に影響を与える地殻温度が火山周辺では異常に高いことに影響している可能性がある。