著者
川村 淳一郎 田代 勝範 池畑 雅啓 脇田 昌明 橋口 伸吾 田代 なお子 染 海王 日高 道生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1151, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】脳卒中片麻痺患者におけるトイレ動作・トイレ移乗とBerg Balance Scaleの関連【方法】脳卒中片麻痺患者のリハビリテーションにおいて、トイレ動作・トイレへの移乗の獲得は入院中のActivities of Daily Living(以下ADL)拡大や自宅復帰時の重要な因子とされている。そこで、脳卒中片麻痺患者におけるFunctional Independence Measure(以下FIM)のトイレ動作・トイレ移乗とBerg Balance Scale(以下BBS)を始め、各評価項目との関連性を検討する。【説明と同意】対象者は入院・外来・併設特老入所者の脳卒中片麻痺患者28名(年齢80.5±8.9歳男性11名、女性17名)。評価項目としてFIM(トイレ動作・トイレ移乗)・BBS・下肢Brunnstrom stage(以下BRS)・非麻痺側筋力(膝関節伸展筋)を計測し、歩行可能群は5m歩行速度・連続歩行距離を測定しトイレ動作・移乗動作と各評価項目との関係性を計った。さらにFIMトイレ動作・移乗が自立群と非自立群に対象者を分類し、BBS総合・静的バランス項目・動的バランス項目との関連を見た。相関についてはspearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は危険率1%未満とした。【結果】本研究は実施時に口頭にて、内容・目的を十分に説明し、患者および家族の同意を得て実施した。【考察】FIM(トイレ動作)3.0±2.0点・FIM(トイレ移乗) 3.6±2.0点であった。評価項目ではBBS18.0±17.3点・下肢BRS3.2±1.5・非麻痺側筋力4.1±0.8・5m歩行速度0.18±0.3m/秒・連続歩行距離26.9±38.3mとなった。spearmanの順位相関係数においてFIM(トイレ動作・トイレ移乗)とBBS・BRS・非麻痺側筋力・5m歩行速度・連続歩行距離で有意な正相関があった。(P<0.01) BBS総合点は自立群42.2±8.8点、非自立群11.7±11.9点・BBS静的バランス項目は自立群12±0点、非自立群5.7±3.4点・動的バランス項目は自立群32.2±8.8点、非自立群6.0±8.9点とすべての項目において有意な差を認めた。【考察】 今回の結果よりトイレ動作・トイレ移乗に対してすべての項目で相関が認められたが、単的な評価項目であるBRS・非麻痺側筋力に比べ複合的なバランス能力を必要とするBBS・5m歩行速度・連続歩行距離でより強い相関が見られた。中でもBBSには極めて強い正の相関があることが認められた。脳卒中片麻痺患者におけるBBSの評価に関しては麻痺の程度、健側下肢の筋力・歩行能力・姿勢反射、感覚系が深く関与しており、FIMのトイレ動作・トイレ移乗の項目にも深く関与していることが再確認できた。BBSに関しては過去の論文より、高齢者・脳卒中片麻痺患者のバランステストとしては、有用性は証明されており、テストの再現性も高く信頼性と妥当性が確認されている。このことからも、トイレ関連動作は高度なバランス能力を必要としている。両動作のFIM6・7の自立群ではBBS動的バランス項目(起立・着座・移乗・閉脚立位・リーチ・物を拾う・振り向き・タンデム)が可能であったことから全方向の重心移動と移動した位置で保持する能力が必要と推測される。今回の対象者である脳卒中片麻痺患者のトイレ動作でのFIM減点項目としてズボンの上げ下げが最も減点される項目であり、上下への重心移動と調節が困難であったと考えられる。また、トイレ移乗でのFIM減点項目として立位保持から着座があげられ、こちらも後方へのバランス能力が必要だったと考える。BBS動的バランス項目でトイレ動作自立群、非自立群では有意な差が認められたのは上記のような動的バランス調整能力が必要であるからである。脳卒中片麻痺患者においてバランス能力が低下している場合、生活動作としてのトイレ動作・トイレ移乗動作の完全自立は困難であり、ADLを拡大するためには人的介助あるいは福祉用具によってバランス能力を補助することが必要となってくる。【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者のバランス能力を評価することによってトイレ動作・移乗への介助量を推量する一つの指標になり、入院中・自宅復帰後のADL・QOL拡大を図るための対応がとれる前段階的アセスメントとなりうる。