著者
汪 光煕 草薙 得一 伊藤 一幸
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.135-143, 1997-08-30 (Released:2009-12-17)
参考文献数
11
被引用文献数
6 7 5

ミズアオイとコナギの生育並びに種子生産に対する播種時期, 遮光および施肥量などの影響について検討し, 次のことを明らかにした。1) 草丈はいずれの播種時期においてもミズアオイがコナギよりも高かった。主茎葉数は5月までの播種期においては, ミズアオイがコナギよりも多かったが, 6月以降の播種期においてはコナギの方が多かった。2) 種子生産量は, 両草種ともに5, 6月播種で大きい値を示した。3) 各器官への乾物分配率を4月と8月播種で比較すると, 前者では生殖器官への分配が生育後期に集中したのに対して, 後者では, 生育前期より生殖器官への分配が認められた。4) 草丈は両草種ともに無遮光条件では無施肥区が最も低かったが, 遮光が強化されるに伴い, 逆に無施肥区で草丈が最も高くなり, 倍量施肥区が最も低く推移し, 標準施肥区は両者の中間の草丈を示した。5) 種子生産量は無遮光条件では施肥量の増加に伴い, 明らかに多くなった。しかし, 遮光処理区では両草種ともに播種後90日に25%遮光開始の倍量施肥区で種子生産量が最大となった。
著者
汪 光煕 草薙 得一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.105-111, 1996-07-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2

アジア産ミズアオイ属植物の主な染色体数は2n=24, 48(ホソバコナギMonochoria vaginalis var.angustifolia), 2n=28(カイナンミズアオイM.valoda), 2n=52(コナギM.vaginalis var.vaginalis, ミズアオイM.korsakowii)と2n=80(ナンヨウミズアオイM.hastata)である。このうち2n=48はこの属における新しい染色体数である。また, ミズアオイとコナギについてはこれまでほとんど報告がなかった日本と中国の材料からの結果は既存報告と一致した。2n=52は2n=24と2n=28との交雑から生じた異質四倍体(allotetraploid)で, 2n=80は2n=52と2n=28から生じた同質異質六倍体(autoallohexaploid)であると考えられているのに対して, 2n=48は2n=24から倍加してできたものであろうと推察される。
著者
汪 光煕 草薙 得一 伊藤 一幸
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.247-254, 1996-10-25
参考文献数
13
被引用文献数
16

ミズアオイとコナギの種子の休眠, 発芽, 出芽に及ぼす環境要因の影響を検討し, 次のことが明らかになった。1) ミズアオイとコナギの種子の休眠はともに採種後戸外水槽中に貯蔵した種子が最も早く覚醒し, 採種後60日前後で高い発芽率を示した。また, ミズアオイでは戸外畑土表層, 戸外畑土中および5℃畑土中に貯蔵したものも高い発芽率を示し, コナギよりも低温条件による休眠覚醒効果が大きかった。2) ミズアオイの休眠覚醒種子は15℃から40℃までの温度条件下で発芽が認められたが, コナギは15℃では全く発芽しなかった。ミズアオイは20℃, 25℃, 30℃の温度で100%の発芽率を示し, コナギは30℃と35℃で100%となった。ミズアオイはコナギよりも低温条件下で発芽が可能であり, その発芽適温の幅はコナギよりも広いことが認められた。3) 播種から出芽始めまでの日数を調査した結果, ミズアオイとコナギはともに3月16日から7月19日までの間に播種した場合には播種時期が遅くなるにともない, 出芽始めまでの日数が短かったが, 8月14日の播種からは播種時期が遅くなるにともない, 出芽始めまでの日数が増加し, 播種から出芽始めまでに要する日数は積算温度に強く規制されていた。4) 両草種ともに暗条件下での発芽率は明条件よりも低く, その差異は温度が低いほど大きかった。5) 水深と発芽との関係についてはミズアオイとコナギはともに湛水深が5cmと3cmの場合に発芽率が高く, 水深0cmより水位が低くなるにともない, 発芽率も低くなった。とくにコナギは水深0cm以下の水深ではほとんど発芽せず, 地表面から-5cmの水位では発芽率は0%であった。6) 出芽に及ぼす覆土深の影響についてはミズアオイとコナギはともに覆土が厚くなるにつれて, 出芽率が低下したが, 覆土深が1.5cmまではコナギの方が出芽率が高かった。出芽の限界覆土深はミズアオイでは3.0cm, コナギでは2.0cmであったが, この限界覆土深では両草種ともに出芽率は数パーセント程度であった。7) 種子が発芽能力を有するまでの開花後日数はミズアオイの種子では少なくとも23日間を要し, 27日以上経過すれば, 75%以上, 33日以上経過したものは100%の発芽能力があった。コナギはミズアオイよりも少し遅く, 発芽能力を有し始めたのは開花後27日であった。その後, 急速に発芽率の向上が認められた。
著者
汪 光煕 三浦 励一 草薙 得一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-65, 1995-07-28
被引用文献数
4

ミズアオイは東アジアに分布する抽水性の一年草であり, 水田, 水路, 多湿地などに多い。本研究では中国の黒龍江省, 吉林省, 遼寧省と日本の福井県三方郡の自然集団および京都大学付属農場の人工集団で, 水田雑草ミズアオイの花の形態と送粉様式について検討した。ミズアオイの花には雄蕊が6個ある。5個は小さくて葯は黄色, 1個は大きくて葯は花被片と同じ青紫色である。両方とも稔性のある花粉をつくる。その花には鏡像二型性が見られる。即ち, 花から見て大雄蕊が右側, 柱頭は左側に位置するもの(L型)と, 反対に大雄蕊が左側, 柱頭は右側に位置するもの(R型)がある。L型の花とR型の花は花序の各分枝上に交互に付く。主要な訪花昆虫は二ホンミツバチ, クマバチおよびマルハナバチ類であった。これらのハチが訪花した場合, 大雄蕊と柱頭は昆虫の体の左右対称の位置に接触する。従って, 異花受粉は異型花の間で起こりやすく, 同型花の間では起こりにくいことが予想される。また, 大雄蕊が青紫色をしているのは他殖用の花粉を昆虫に食料として持ち去られないための適応であると考えられる。黄色い小雄蕊は昆虫を引きつける目印であり, また, ミズアオイの花には蜜腺がないので, 小雄蕊の花粉は昆虫への報酬でもある。さらに, 昆虫が訪れない場合でも, 柱頭の上方に位置する小雄蕊によって自花受粉で種子をつくることができる。ミズアオイ集団内の虫媒による異花受粉は隣花受粉(同株同花序異花受粉, 同株異花序受粉)と他家受粉(同集団異株受粉)との様式がある。同一個体上に同時に異なる型の花が咲いた場合は隣花受粉が起こり得るので, ミズアオイの花の鏡像二型性は自殖回避の機構としては不完全である。しかし, 一個体に同時に咲く花の数が多くない場合には有効に他殖を促進する可能性がある。