著者
汲田 泉
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.404-408, 2002
参考文献数
1

ステロールの生合成経路の阻害剤としては、これまでさまざまなタイプのものが知られている。P-450阻害によるメチル化を阻害するアゾール系化合物は、合成的自由度が大きく非常に多数の化合物が農業用、医薬用として実用化されており、殺菌剤・抗真菌剤の中で重要な位置をしめている。二重結合の異性化・還元化反応の阻害剤としてはモルフォリン系殺菌剤が知られており、うどんこ病剤として広く使用されている。スクワレンエポキシダーゼ阻害剤としては医療用抗真菌剤として、アリルアミン系・チオカルバミン酸系の二つのタイプが実用化されている。In vitro系において割合広い抗菌スペクトラムを有しており、新しい農業用殺菌剤の可能性もあると思われる。スクワレンエポキシドサイクラーゼ阻害剤としてはまだ実用化されたものはないが、長鎖アルキルイミダゾールが阻害剤として知られており、今後の新しいターゲットの一つと考えられる。農薬の探索研究はこれまで、総合的な評価ができるいわゆる"ぶっかけ試験"を中心としてきた。しかし、農薬の領域においても作用機作の研究などが大きく進み、生理生化学的手法をとりいれた生合理的アプローチの基盤が整ってきた。ターゲットとして、生化学的評価のしやすいステロールの生合成系を選定し、その阻害活性を有する殺菌剤の探索を行った。方法としては、単に抗菌力の強弱ではなく活性の質的な面に注目し、菌の形態観察(膜の異常は菌糸の形態異常を引き起こすと思われる)やステロールの分析を行いながら化合物を選抜して行くことにした。それにより、今までの方法では見過ごされるようなリード骨格を新たな視点で取り上げ発展させ、より合理的な新規殺菌剤の探索研究を目指した。