著者
沓名 弘美 沓名 貴彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.507-513, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
29

臙脂は,紀元前2世紀に西域より中国にもたらされた赤色の色料である。初期の臙脂は,ベニバナを原料としてつくられた化粧品であった。7世紀頃には,ラック色素を円形の薄い綿に染みこませた綿臙脂がつくられるようになった。綿臙脂は,近代に至るまで,化粧品,医薬品,美術工芸の色料として用いられていた。現代では,綿臙脂の製造が廃れ,製法も不明である。しかし,古典的な美術工芸や文化財の保存修復では,臙脂は重要な材料であり,その再現が強く求められている。筆者らは,文献の研究,実地調査,科学分析と実験によって,綿臙脂の再現を目指している。唐代の医学書の『外台秘要方』には,綿臙脂の詳細な処方が記載されている。その処方に基づき,筆者らは,各材料の同定,分量の解明をすすめ,紫鉱(ラック)と数種の漢方の薬種を用いて,臙脂の試作を行った。本稿では,臙脂の歴史的な変遷を解説し,試作の過程について報告する。