- 著者
-
沢本 修一
- 出版者
- 帝京大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
近年、気管支喘息は、慢性剥離性好酸球性気管支炎とも呼ばれ、気道の慢性炎症において好酸球が重要な役割を演じていると言われている。好酸球が、その機能を十分に発揮するためには、遊走して来た局所における寿命の延長が重要で、気管支喘息の治療戦略においても、遊走して来た局所における好酸球の寿命を抑制することは有用な治療手段である。本研究では、サイトカインのなかで好酸球に対して最も強力に作用するIL-5を用いて、IL-5による好酸球寿命延長効果を確認するとともに、既存の抗喘息薬としてテオフィリンを取り上げ、IL-5の好酸球寿命延長効果に対するテオフィリンの抑制効果の有無を検討し、さらに、そのメカニズムにapoptosisが関与してるかどうかをDNAのfragmentationを指標にして検討を加えた。1.IL-5による好酸球寿命延長効果:末梢血より分離した好酸球に培養液のみを加えたコントロール群と、好酸球にIL-5(10ng/ml)のみを加えたIL-5単独群で好酸球の生存細胞数の推移を検討した。その結果、コントロール群の生存細胞は、day4において24.4%まで急減し、dya7で全ての好酸球が死滅した。一方、IL-5単独群では、day7での生存細胞数は94.2%とやや低下したが、day10においてさえも%生存細胞数は83.8%維持されていた。以上の結果により、IL-5は、好酸球の寿命を著明に延長し、IL-5が好酸球寿命延長効果を有することを確認した。2.IL-5の好酸球寿命延長効果に対するテオフィリンの抑制効果:好酸球に、IL-5を加えたIL-5単独群のday4における%生存細胞数を100%として生存率を計算したところ、IL-5+テオフィリン群のday4における%生存細胞数は、63.1±3.4%(mean±SEM)で両者間に明らかな有意差(t<0.005)を認め、テオフィリンは、IL-5の好酸球寿命延長効果に対して抑制効果があることが判明した。3.テオフィリンによるIL-5の好酸球寿命延長効果に対する抑制機構の検討-apoptosisの関与について:テオフィリンは、IL-5の好酸球寿命延長効果を抑制したが、その機構がapoptosisによるものかどうかを調べるために、IL-5単独、コントロール、IL-5+テオフィリン、IL-5+dibutyryl-cAMP(d-cAMP)、IL-5+デキサメタゾンの好酸球から抽出したDNAのfragmentationを指標にしてapoptosisの関与を検討した。その結果、IL-5+テオフィリン、IL-5+d-cAMP、IL-5+デキサメタゾンでDNAのfragmentationが見られ、これらの薬剤によるapoptosisの誘導が示唆された。IL-5+テオフィリンとIL-5+d-cAMPでDNAのfragmentationが見られたことは、テオフィリンによるIL-5の好酸球寿命延長効果に対する抑制機構にapoptosisが関与し、さらにテオフィリンは、その薬理作用の中で細胞内cAMP上昇を介することにより好酸球に対してapoptosisを誘導していると考えられた。