著者
沢田 こずえ
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

将来、大気CO2濃度の上昇による植物の光合成促進に伴って、土壌へのC供給量が増加すると予想される。土壌へ易分解性Cが添加されると、もともと土壌に存在する有機物の無機化が促進(正のプライミング効果)または遅延(負のプライミング効果)される。また、人間活動の発展に伴って、大気中のN化合物濃度が増加した結果、土壌へのN負荷量も増加している。土壌へ無機態Nが添加されると、プライミング効果が抑制または促進される。本研究は、「N供給能が低い日本森林土壌では、プライミング効果に与える無機態N添加の影響が大きい」という仮説を検証するために、高知県スギ林とヒノキ林土壌において、プライミング効果に与える無機態N添加の影響を評価することを目的とした。結果、ヒノキ土壌では、グルコース添加によって負のプライミング効果が起こった。また、土壌有機物由来微生物バイオマスCが増加した。ヒノキは糸状菌が優占するので、糸状菌が体内に炭素を貯めこむことによってCO2放出が抑えられるのかもしれない。一方、スギ土壌へグルコースのみ添加した場合は、プライミング効果は起こらなかったが、グルコースとともに無機態Nを添加した場合、正のプライミング効果が起こった。また、58日間で添加グルコースCを上回るCO2-Cが積算で放出され、C収支がマイナスとなったことから、スギへのC・N添加の影響は極めて大きいことが分かった。また、この時土壌有機物由来微生物バイオマスNの代謝回転が速くなった。以上から、①ヒノキでは、無機態N添加の有無にかかわらず正のプライミング効果が起こらなかった、②スギでは、無機態N添加によってバイオマスNの代謝回転が早まり、正のプライミング効果が起こったことが分かった。