著者
大森 優子 松崎 晋一 中島 雅子 河井 利恵子 岡田 克之 桑島 信
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.319-325, 2016 (Released:2016-12-05)
参考文献数
20

活動性結核が院内で発生した場合には他者への感染拡大が重大な問題となる.2009年当院入院後に感染対策を施行されていない4名の患者から肺結核が診断され,約130人に接触者健診を実施した.この事例を機に60歳以上で喀痰培養を行った入院患者を対象に,抗酸菌検査の依頼がない検体について検査室で抗酸菌塗抹検査を追加し排菌結核患者のスクリーニングを行った.調査期間は2010年9月から2014年12月とした.追加した抗酸菌塗抹検査は2,646検体でありこのうち5検体で結核菌が検出された(全体の0.19%).また介入前後の塗抹陽性肺結核患者12人の比較を行い,抗酸菌塗抹検査を追加する介入によって接触者健診対象者が56人減少し,接触者健診を1人減少させるために要する追加費用は868円であり,接触者健診1人当たりの費用2,933円と比較して安価であった.スクリーニング検査により早期に結核を診断し感染曝露の危険性を低下させることは,結核の院内感染対策として非常に重要である.今回の結果より入院時および入院中の患者から提出されたすべての喀痰検体に抗酸菌塗抹検査を行うことが,活動性肺結核患者の早期発見さらには接触者健診数の減少につながる可能性が示唆された.一方入院後14日以上検体が提出されなかった症例もあり,できるだけ早期に検体が提出されるよう医師を対象とした啓発活動や診断サポート体制の整備も不可欠と考えられた.