- 著者
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中島 雅子
- 出版者
- 一般社団法人 日本理科教育学会
- 雑誌
- 理科教育学研究 (ISSN:13452614)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.3, pp.411-421, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
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本稿の目的は,理科教育における授業改善のための教師の自己評価に必要な要素とその構造を明らかにすることにある。自己評価に注目したのは次の理由による。学習・授業の改善が適切に行われるためには,学習者や教師が自身の問題点を自覚する,つまり,自己評価が行われなければ,真の意味での改善は難しいと考えられるからである。さらに,それはどこにどのような問題があるのかが,具体的に把握できなければ日々の実践に生かすのは難しい。本稿では,先行研究を基に,次の3点を中心に議論した。1つは,適切な自己評価が行われるための教師の評価観の問題である。2つめは,育成が難しいとされる自己評価能力の問題である。3つめは,教育評価で資質・能力を育成するという考え方である。これらについて,形成的評価において自己評価を重視する「一枚ポートフォリオ評価(OPPA:One Page Portfolio Assessment)論,以下OPPA論と記す」を提案した堀哲夫の言説を基に検証した。その結果,要素として次の4点を抽出した。第一に,メタ認知を促すための自己評価における問いである。これまで自己評価の問いについてはほとんど議論されてこなかった。第二に,その問いに対する学習者の記述への教師のコメントによるフィードバックの効果である。第三に,その前提としての「学習や指導の機能を持つ評価」という考え方である。第四に,これらの前提にある概念やその形成過程の自覚化という視点である。構造は次の通りである。学習者が「問い」により自身の概念や考え方の形成・変容過程を自覚することで,メタ認知といった資質・能力の育成が促される。それと同時にそれらを教師が確認し,フィードバックすることで授業の何が問題だったのかを具体的に把握できることになることが教師の授業改善,さらには,教育観の変容を促すことになる。学習者の自己評価と教師の自己評価は,この概念形成の自覚化という視点により結びつくことが可能になる。