- 著者
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岡上 伸雄
照井 啓介
荒木 肇
金澤 俊成
河井 聖司
- 出版者
- 日本熱帯農業学会
- 雑誌
- 熱帯農業 (ISSN:00215260)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.4, pp.265-270, 1999-12-01
湿潤な熱帯の各地で栽培されているヤマノイモ属植物(ヤム)は, その地域の野生種に由来するものが多い.これらのヤムの栽培に際しては栄養繁殖による増殖手段がとられている.今回, 種子からの芽生えを用いて増殖や育種を行う場合の利点を考え, ナイジェリアに分布しているヤマノイモ属6種の種子を入手し, その発芽のための条件を調べた.いずれの種の種子も20〜26℃の範囲では高い発芽率を示した.発芽可能最低温度は6種に共通して20℃であったが, 発芽した芽生えはより低い温度でも成長した.いずれの種も高温では発芽が抑えられた.発芽可能な最高温度は種により異なり, 26〜32℃の間にあった.高温で発芽しなかった種子を26℃に移すと容易に発芽するので, 高温は二次休眠を誘導していない.これは, 温帯アジア産のヤムの種子が高温によって深い二次休眠の状態に入ることと大きく異なる点である.種子から胚を遊離し, 糖を加えた培地で無菌的に培養すると, いずれの種の胚も高温による発芽の抑制は見られず, 広い範囲の温度で急速に発芽し成長した.種子の発芽の高温による抑制は胚以外の部分の性質に起因しているものと考えられる.なお, 遊離胚を29℃以上の温度で培養すると発芽後に胚の吸収型子葉は高頻度でカルス化した.このカルスはこの属の植物の遺伝子導入系として有用であろう.今回得られた結果は, これらの種の増殖や育種のために役立つものと考えられる.