著者
河原木 有二
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.121-133, 2000-02

平安末期から中世初頭にかけて活躍した歌人、西行は、その在世時からすでに多くの伝説をまとった人物であった。謎につつまれた出家の真実、旅から旅の生涯で出会った人々、出来事、そして無常であるはずの「死」を確かなものとしたその最期-。中世以降、『西行物語』、『撰集抄』を皮切りに西行の名声は高まる一方であった。さらに、その死後も、西行の伝承は全国各地へ広がり続けた。たとえば、いたるところに墓のある和泉式部について、その骨をすべて集めたならば、どれほどの巨人になるであろうか、といったのは柳田國男であったが、西行の伝承についても同様のことがいえる。しかも、その足跡はここ九州の地においても数多く見ることができるのである。そこで本論では、西行の九州行脚説にも検討を加えながら、九州各地に残る西行伝承の紹介、整理を試み、それらを伝播した人々の存在、そして西行的なるものの存在に対する人々の思いを明らかにする。