- 著者
-
河合 利修
- 出版者
- 日本赤十字豊田看護大学
- 雑誌
- 日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, no.1, pp.13-20, 2005-03
国際人道法の一条約である第1追加議定書の第59条には戦時における無防備地区の設置が定められている。この条項をもとに、無防備地区宣言を行う条例を自治体に採択するよう働きかける「無防備地域宣言運動」が我が国では盛んになっている。第1追加議定書の解釈を検討すると、無防備地区の宣言を行える主体に地方自治体も含まれるが、地方自治体に関しては極めて例外的な主体であり、国際的に地方自治体が広く主体として受け入れられているかは疑問である。さらに、議定書が採択された1977年以降、無防備地区が宣言された例はない。「無防備地域宣言運動」は平和運動の一環として政治的な運動でもあるが、国際人道法は戦争という現実のなかでの犠牲者保護を定めた現実的かつ政治中立的な法である。また国際人道法は人道の原則と軍事的必要性の原則の均衡をとる役割を果たしており、平和運動の一環としての「無防備地域宣言運動」とは性格を異にする。